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会社近くの居酒屋で食事をした。好きなお笑いコンビが同じだと分かり、ひとしきり盛り上がった。ご馳走になり、店を出ると、東堂さんが腕時計を眺める。
「あの、もしまだお時間大丈夫なら、もう一軒いきませんか?今度は私がご馳走します。」
勇気を振り絞って、やっと言えた言葉だった。
「いや、悪いよ。」
「そう・・ですか。」
サクッと断られて、食い下がる勇気は出ず下を向く。
「疲れてるでしょ?」
「いえ!あ、疲れてますけど・・・あ、そっか。東堂さんもお疲れですよね。」
「いや、俺は大丈夫だけど・・・。伴内さんは本当に大丈夫なの?」
「はい。大丈夫です。」
大丈夫なんてものではなく、行きたいんです、と言えない自分が情けない。
「じゃ、もう一軒だけ、行こうか?」
「はい!」
嬉しくて勢いよく顔を上げてしまい、クスリと笑われる。顔が赤らんでいくのを感じて思わず両手で覆うと、頭を撫でられた。
「行きたい店ある?」
「すみません、考えてませんでした。東堂さんはありますか?」
「うん。そこ連れてっていい?」
「はい。」
『連れて行く』という表現に胸がキュッとなる。嬉しくて、どうしても上がってしまう口角を隠そうと下を向くと、東堂さんが顔を覗き込んでくる。目が合って、慌てて微笑むと、東堂さんも微笑んでくれる。
「こっち。」
歩き出した東堂さんの背中を見て、キューッと喜びが胸に広がる。グッと両手を胸にあて、にやけながら目を閉じた。
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