0人が本棚に入れています
本棚に追加
辿り着いた場所
数時間のドライブの末、辿り着いたのは私の住む街から少し離れた山の麓だった。
「山に登るの?」
「うん」
車を駐車場に止めて、準備をする。足元を見れば二人とも普通のスニーカーだった。登山用では無いが、ヒールやブーツよりはマシだろう。服装を確認すればスッキリしたシルエットのスポーティーなパンツスタイル。ハイキング程度なら可能なはずだ。
「大丈夫。きのこ狩りとかで人も多く入る山だから。そんなに危なく無いよ」
「熊いる?」
「え、いないと思う…。でも鹿とか猿はいるから、気をつけて」
何に気をつけて歩けばいいと言うのか。
「鹿は飛び出してくるし、猿は持ってる食べ物を奪っていく」
暴走族と山賊か?とは思ったが、口には出さずにおく。山は恐ろしい場所だ。それでいい。
登山口にある無人の小屋を素通りして、山道に入る。そんな彼女に続いて、私も山道に入った。少し前まで雨が降っていたのか、土というよりも泥の上を歩いている気分だ。一歩毎に「ねちょ」という音が聞こえて、不快感が呼び起こされる。既にスニーカーが泥まみれで、夢だと知らなければ不機嫌になっていた事だろう。
1時間と少しくらい山道を歩いたところで、突然友人が道から外れ木々の中へ向かって行った。
「どこへ行くの?」
「いいから、着いてきて」
急に友人の声が真剣になったので、黙るしかない。そこから彼女も私も喋る事なく、黙々と道なき道を進んだ。
そうして十数分後。彼女は足を止め、此方を振り返って微笑んでこう言った。
「ありがとう」
最初のコメントを投稿しよう!