色無き風

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 隣村まではここから一里と少しの距離だ。一刻も早く知らせ、助けを求めねば。マツリは山菜の詰まった籠を放り出して、隣の村に続く山道を駆けだした。  額を流れる汗を拭うこともせず、マツリは、ただ、ひたすらに走った。やがて陽は暮れ、山はひんやりと夜に包まれる。藁草履の鼻緒がいつしか、ぷつり、と切れたが、それにかまってなどられぬ。マツリは草履を道ばたにうち捨てると、なおも息を切らして走った。  緩やかな尾根道が続いたあとは、峠の急な坂道が迫る。素足はいつしか泥だらけ、また、道に転がる小石により傷だらけになっていた。だが、マツリは歯をくいしばり、急な勾配を一気に駆け上る。やがて星が夜空に瞬き出す時分、マツリの足はついに山頂に達した。  流石にマツリは息が切れ、真っ暗な峠の頂きで立ち止まる。  苦しげに息を弾ませながらも、ここまでくれば隣村まで、あともう少しだと、なんとか気力を振り絞ろうとマツリは試みる。そして、ほんの少しの休息の後、マツリは再び走り出そうと、暗い山道の向こう側に身体を傾けた。
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