脅威と憶測

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ダメだ!しっかりしろ!楓を目覚めさせない様に上半身だけで大きく深呼吸を繰り返す。 何度か繰り返すうちに「大丈夫だ!」なんの根拠もなく、無意識に口を付いて出た言葉に僕は自分自身を奮い立たせた。 考えろ!現状をよくよく観察しろ!仮定も推測もそれからだ! 身体を動かさない様にそっと楓を覗くと、すぅすぅと寝息を立てていて、完全に寝入った状態だ。 『楓兄さま』のうわ言は寝入りばなに発せられたということになる。 諏訪さんや龍崎さん、史郎からも楓が両親や長兄である楓さんの名前を口にしたなど、聞いたことがない。 まして、記憶の蓋が外れることを一番に脅威と感じていたのは史郎だ。前例があれば僕にその事実を伝えないはずがない。 だとしたら 「今回が初めて起きた現象・・・・」 なぜ?起きた?生活環境が変わって直ぐなら理解できる。環境変化に順応するための取捨選択、動物の生存本能の様なものだ。 待て!順応してきたタイミングだから?か?いや、違う。楓は僕よりも早く二週間ほどで僕らの共同生活に順応していた。 だとすると考えられるのは 「徹夜による脳の神経細胞のダメージ?」 それが一番に可能性が高い。睡眠不足が脳に及ぼす様々な悪影響は科学的にも医学的にも検証結果が出ている。 このまま睡眠不足の状態が続けば、僕らが恐れている状態、楓の脳は機能不全(こわれる)になるのは明らかだ。それこそ、シズカの検証どころではなくなる。分身チームにとっても大きな損失だ。 僕は楓の上書きされた記憶、記憶の蓋が外れる可能性をここにきて改めて脅威だと感じていた。 シズカの第三段階の検証も今日明日で、どうにかなるものでもない。そう考えが及んだ僕はエアモニターを開いて諏訪さんと龍崎さんへ僕らの2日間の休暇申請を提出した。それは、僕が風の里に着任してはじめての休暇申請だった。
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