この夜の月に誓って

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風が頬を撫でて僕は我に返った。 「ちょっ、篠崎さん!ちょっと待って!」 諏訪・龍崎夫妻の部屋での話しを知らないのだから仕方がないけれど、僕は相当の勇気を振り絞って君に逢いにきたんだ!そう告げたくて 「篠崎さん!待って!」 僕は篠崎さんの背後から左腕に手を伸ばした。 シュッ!と風を切り篠崎さんの身体が反転して、僕が伸ばした手を掴まれた瞬間、また、やってしまったと学習しない自分が情けなく思えた。 だけど、今回は組み敷かれないよ。僕は逆手にして掴まれた手をするりと外して 「篠崎さん、待って!僕の話しを聴いて欲しい」 篠崎さんの正面に立ち両肩に手置いて瞳を覗きこんだ。正気だよね?僕が見えているよね? 「!!!泣いているの?」 覗いた篠崎さんの目からはパタパタと涙が零れ落ちていた。しまった!逆手で外したから手首ひねった?すかさず左手首に右手を添えた。 「手首!ひねった?」 「・・・・い、いいえ・・・・大丈夫で・・・す」 今度は振り払おうとはせず、状態を確かめる僕の手元を見つめている。あれ?そう言えば、普通に会話できているよな?呼吸も乱れてはいないし、僕を認識してもいる。 「篠崎さん!僕は一応、合気道の黒帯なんだ。だから、簡単に組み敷かれたりはしない」 そうは言っても2度、組み敷かれているから説得力はないかもしれないが、2度とも受身だったから打ち身さえ残らなかった。 「他人(ひと)を傷つけるかもしれない、無意識の身体の反応を恐いと思っているのではないの?」 篠崎さんはコクンと小さく頷いて「ごめんなさい」と呟くと、またパタパタと大粒の涙を地面に落とした。
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