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もぞもぞとポケットからハンカチを取り出して、篠崎さんはあの夜と同じように最初に僕の上着を拭った。
トントンと僕の胸の辺りを優しく叩く、その姿が愛らしくて、後頭部を一つ撫でてからそっと僕の胸に押しあてた。
「ありがとう。大丈夫だよ。先に・・・・顔を拭いたらいいのに」
あの夜と同じ光景、同じ言葉。違うのは僕の想いが真直ぐに君に向いていることだ。
「もう一度、言わせて欲しい。篠崎さんが抱える荷物全ての半分を僕に分けてもらえないか?」
本心なんだ。分身の原型の頭脳モデルだろが、機能不全の危険性があろうが、君を想う僕の前では障壁にすらならない。
「篠崎さんの気持ちを聴かせてくれる?・・・・この期に及んで図々しいとは思うけれど・・・・」
また、前のめりの一方通行に近い状態だけれど、今回こそは君の気持も知りたいし、聴きたい。
「ダメ・・・・かな?」
篠崎さんの顔を見ることができない。気づけば相当に心拍数が上っているから、僕の胸に左耳をあてている篠崎さんにはうるさい位に伝わっていると思う。
「ダメ・・・・じゃ、ない・・・です」
涙声で呼応してくれた篠崎さんが顔を上げた。
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