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「私・・・・私、自分が自分ではないような衝動に駆られることがあるんです!」
つぅと眼尻から伝う涙が青白い満月の光に照らされた。
「兄も、育ての両親も、私に知られたくない何かがあって!まるで、腫れ物に触る様に私に接する時があるんです!」
ああ、気づいていたんだ。元々勘が鋭いのもあると思うが、仕事柄気付かないはずはないと思っていた。しかも『シズカ』の反応をイレギュラーだと認識していたから、当然と言えば当然だ。
「どうにもできない不安と恐怖に襲われて、夜中に目覚めることもあります!」
記憶の蓋は完全じゃない。分らないことほど不安も恐怖も増幅される。史郎にも諏訪さん、龍崎さんにも知らせることなく、どれだけ独りで堪えてきたのだろう。
「それでも!山吹さんは私に今と同じことが言えますか?」
眼尻から流れる涙の線が太くなって見えた。大丈夫だよ。僕は何があろうとこの先の君と道を同じに歩んでいく。
「この夜の月に誓うよ。不安も恐怖も、将来味わう喜びも哀しみも、篠崎さんが抱える荷物全ての半分を僕に分けて欲しい」
何度でも言うよ。これが僕の本心だから。
僕を見上げる篠崎さんの瞳をじっと見つめて、湧き上がる想いと一緒に僕のすべてを伝えた。僕の言葉に目を細めた篠崎さんは、恥ずかしそうに微笑みながら、両腕を僕の首に回して、
「はい・・・・はい!」
と、二度目に少し強く答えた。
青白い満月が夜鏡池に姿を映した雪でも降りそうな寒い夜、僕らの将来の日々は、ここからはじまった。
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