難航

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難航

シャーと水が流れる音が遠くで聞こえてくる。水泡に包まれ夜鏡池の底から徐々に水面に浮上している様で何とも心地がよい。 ふわりと香ったジャスミンの匂いに段々と意識が鮮明になってくる。 ああ、そうだった。昨夜も遅くまで諏訪さんたちと研究所(ラボ)で『シズカ』の検証をしていて部屋に戻ったのは明け方だった。 ここ一週間ほどは毎日こんな感じで、明け方に部屋に戻って二、三時間の仮眠を摂ってまた研究所(ラボ)へを繰り返している。 帰り際に楓と一緒に夜鏡池の夜明けを堪能したからか?身体が水泡に包まれるなんて妙な感覚に陥ったのかな? そんなことをふわふわと心地のよい意識の中で考えていた。 あれから半年、箱庭に納めた分身(アンドロイド)初号機シズカの感情制御の検証が第三段階まできていた。 第一段階は、箱庭納入時の思考と感情の波長が途切れる現象を回避する境界線の制御。第二段階は、箱庭納入後の本体の思考をAIで先読みし自律行動を可能にする行動制御。 そして第三段階である現在が、本体と同等の感情表現を可能とする完全な分身(アンドロイド)の完成。ここをクリアするとシズカは箱庭から出て風の里での実証実験に入ることが許可される。 だが、第三段階に入ってから難航していた。AIが出力する感情表現とシズカの本体、風見静さんの感情表現に大きくズレが生じる現象が続いていた。 難航することは分ってはいたものの、あまりのズレの大きさに人間の感情がいかに難解でAIでも予測困難であることが改めて浮き彫りとなった。 どうしたものかな?目覚めはしたが、目も開けずにゴロゴロと寝返りをうって、隣で眠る楓へ手を伸ばした。 「あれ?楓?!」 僕は、隣にいるはずの楓の姿がないことに慌てて飛び起きた。
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