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バタンっと勢いよくドアを開けて寝室を出るとジャスミンの香りが一層強く立ち込めていた。
「あっ!悟、おはよう。丁度よかった。ジャスミン茶、いれたところなの」
私たち相当に寝不足だからと言いながらティーポットからカップへジャスミン茶を注ぐ楓の姿に僕はほっと胸を撫で下ろした。
もしや?もう研究所に向かったのでは?と思って飛び起きたから、風呂から上がったばかりのヘアタオルを頭に巻いたまま、キッチンカウンターに立つ楓に安堵のため息がもれる。
「髪、乾かさないと風邪をひくよ」
「なら、悟が乾かしてぇ」
少し、お道化て見せるテンションに楓が徹夜したことが見て取れた。
「わかった。ソファに座って」
「わぁい」
なんて、感嘆の声を上げること自体が普通じゃない。こんな時の楓は決まって自責の念に駆られている。
僕は素知らぬふりでトレーに2つのカップを乗せ手にした楓をソファに誘った。
シズカを箱庭に納入した半年前の青白い満月の夜、僕は夜鏡池で楓に二度目の告白をした。そして、楓の気持ちも、彼女が抱える不安や恐怖も、僕は全てを受け止めると月に誓った。
その一月後の満月の夜、楓から「一緒に暮らしませんか?」と持ち掛けられた。一月以上もぐずぐずと楓への想いで右往左往していた僕からすると展開が早すぎて、正直面くらった。
「嫌ですか?」と聞かれて、「嫌なはずないでしょう!」と前のめりに呼応する自分が滑稽に思えるほどに。
諏訪・龍崎夫妻に話しをすると「いつ、その言葉を聞けるかと、待ち望んでいたぞ」と言われて妙に照れ臭く感じた。
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