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その後は、とんとん拍子に進んだ。シズカの検証も第二段階の行動制御が予想以上に順調だったから。
宿舎長も兼ねている龍崎さんが手配してくれたファミリータイプの部屋へ僕らはそれぞれ単身タイプの部屋から引っ越しをした。
引っ越しと言っても家具は備え付け。僕の場合は、まとめる荷物もさほどないから、ほんの数時間で新居での荷ほどきまで完了。
楓も同じようで台車1台、一往復で済むほどの荷物を運び入れて完了。2人ともが荷物の少なさに笑い合った。
新居で初めて響いたのは大きな笑い声で、僕はこの時、将来訪れる日々は笑顔の絶えない2人の姿しか思い浮かばないでいた。
ラグの上に座る楓を両足で挟むようにソファに腰かけた。この半年、こうやって少しずつ、少しずつ背後に僕がいても無意識の攻撃が出ないまでになってきている。
もちろん、あらかじめ背後から近づくことを認識させてはいるが、以前の様な殺気立った気配を醸し出すことはなくなっていた。
僕は、少し短くなった楓の黒髪にドライヤーをあてて
「眠れなかったの?」
と、責める口調にならないように細心の注意を払いながら問いかけた。
「・・・・」
肩がピクリっと動いたから僕の問いかけが耳に届いていることは明らかなのに。ダンマリを決め込む都合の悪い時の楓の癖。
一緒に暮らすと新たな発見が沢山ある。いや、それまでがお互い研究所での姿しか知らないのだから、そう感じるのも当然と言えば当然だ。
「・・・・楓?」
僕はもう一度、楓に返答を促す様に名前を呼んだ。
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