難航

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ゴーと勢いよく吹き出すドライヤーの風を左右に揺らして楓の黒髪を手くしで伸ばす様に梳いていると 「・・・・うん・・・・」 と、小さく頷く声が聴こえた。 「そうか。先に寝ちゃって、ごめん」 プログラマーの楓はシズカの感情が本体と同等にならない原因は自分たちにあると考えている。 「元々、眠りが浅い方だから・・・・」 だが、僕の認識は別だ。そもそも、指示ソースは生成AIを使い何万通りから組み立てたものだから不完全さは解消できているはずだ。 「ここ一週間、ずっとじゃないの?」 分身(アンドロイド)は基礎的な構成はロボットと同じで、単純にいうとハードウェアとインフラ的要素の二つで構成されている。 「うつら、うつら、は・・・・しているから・・・・」 ハードウェアは分身(アンドロイド)の本体で、知覚(センサー)認識判断(コンピュータ)動作(アクチェータ)で機能を担い 「そろそろ・・・・限界じゃない?」 インフラ的要素は電源、素材、ネットワークで動作を起こすエネルギーを供給する。 「心配かけて、ごめんなさい・・・・」 だから僕は、シズカの本体、風見静さんの基礎データを箱庭内だけの蓄積では限界があると考えていた。 「心配はしていないよ。案じているんだ」 僕はドライヤーを止めて、乾いた楓の黒髪を頭頂部から整える様に頭ごと撫で下ろして、頭に唇を寄せた。 「案じているんだよ、楓が気に病むことではないから」 僕の言葉に顔を上げ、振りむいた楓の額にそっとキスをした。 そうだ。楓が自責の念に駆られることでも、気に病むことでもない。問題はシズカの基礎データの収集方法にある。僕はそう確信をしていた。
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