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史郎が僕らの部屋に、しかも楓が眠っているベッド脇で2人並んでいたものだから、僕らの姿を目にした楓は首を傾げた。
「私、どれくらい眠っていたの?」
これまでも史郎や諏訪さん、龍崎さんの自分に対する接し方が尋常とは思えない場面を何度となく経験していた楓の表情は一気に曇った。
楓の表情が一変したことに史郎もどことなく落ち着きをなくしている。僕は、目の前でお互いに狼狽えている兄妹を自分でも驚くほど冷静に観ていられた。
「5時間位かな?楓にしては、かなり長い睡眠だね」
楓の前でエアモニターを開いて、自分の目で時間を確認させる。
「・・・・ほん・・・とに・・・よね?」
不安そうに僕の顔を見上げる楓は、自分の身に隠された何かがあることを間違いなく察している。だけどね。僕らは楓に知られるわけにはいかないんだ。
「まぁ、一週間以上もほとんど眠れていなければ、そうなるよね?」
僕は努めて一般論として睡眠不足が心身に与える悪影響をあえて技術屋口調で語って見せてから、呆気に取られている史郎へ視線を向けた。
「鏑木さんは、農業地区から白葡萄のジュースを差し入れてくれたんだよ。楓の大好物だろう?」
僕の視線の動きに合わせる様に史郎に目を移した楓は「そうなの?」と、言葉にならない訝し気な表情を向けた。
「一颯さんに頼まれていたんだ。収穫したて、搾りたての白葡萄ジュースを届けてくれって」
「・・・・」
視線を外すことなく呼応する史郎の本意を探る様に、楓は睨むような目つきで史郎を見つめていた。
「ぷっ!」
思わず噴き出した僕に2人同時に視線を向けて
「何がおかしい!?」
「何がおかしいの?」
同じ言葉が、同じ表情で、同じタイミングで僕に向けられた。
「ははは、こんな時、2人は兄妹なんだと改めて感じるよ」
2人は顔を見合わせてから
「なんだ?それ?」
「なに?それ?」
と、また、まったく同じに呼応した。そこからは連れ立って、食堂でランチを済ませ今に至る。
ひとまずは楓の記憶の蓋が外れる脅威と楓に事実を知られる危機は回避できたが、シズカの検証方法の見直しを早急に詰める必要がある。幸せそうに白葡萄ジュースを口にする楓を見ながら検証の見直し案に僕は考えを巡らせた。
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