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バックアップと提案
「心配してると思うから、望さんの所に行ってくるわね」
白葡萄ジュースを飲み終えると楓はおもむろに立ち上がった。
「それなら僕も・・・・」
と、言いかけ椅子を引いた僕の腕をガシッと掴んだ楓はフルフルと首を横に振って
「自分の不始末は自分で対処してくるわ」
これは僕に来てくれるなと言うことだ。楓が諏訪さんにだけ話したい何かがあるに違いない。
最近、里長関連の仕事で風の里の外へ出ることが多かった史郎が、目覚めた時点で目の前にいた。と、いうことにも疑念を抱いているのだろう。
「楓、一颯さんの所にも行ってこいよ!」
楓の思惑を感づいているのか?いないのか?いや、感づいているからこそ、敢えて龍崎さんに会わせる心づもりなのかもしれない。楓の微妙な心身の変化を的確に捉え見極められるのは、龍崎さんを置いて他にいない。
「分かっているわよ。私の中では望さんと一颯さんはセットなの!」
楓は諏訪さんに会うことは龍崎さんにも会うということだと少し頬を膨らませて、史郎にわざわざ指図をされたことに
「子ども扱いし過ぎ!」
と、ぷいっと横を向いてから、僕に何やら少し含んだ様に見える笑顔を向けて「行ってきます」と、食堂を出て行った。
「「・・・・」」
楓が食堂を出ていく後ろ姿を僕と史郎は黙って見つめていた。回廊と境の扉が完全に閉まるのと同時に僕らは視線を合わせた。
「史郎、僕に、僕だけに話したいことがあるのでは?」
口火を切ったのは僕だった。
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