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「相変わらず、察しがよくて・・・・嫌なヤツだ」
言うほど、嫌な顔をしていないところが史郎らしい。照れた様に口角を上げたが、直ぐに真剣な面持ちで僕に視線を向けた。
「正直なところ・・・・悟は楓の症状をどう捉える?」
僕の真意を探る様に、珍しく前のめりに結んだ両手を唇にあてている。ああ、そうか。仕事モードなのか。
分身チームの面々は皆がみな、時間を決めて食事を摂るわけではないが、それでも昼食の時間帯が過ぎた宿舎の食堂は人もまばらだ。
だが、どこに目があり、耳があるか分からないと無意識に思っているのだろう。こんな時、史郎の仕草に吉祥本家直属の調査部を統括する鏑木家の色を感じる。
「そうですね・・・・」
どう、答えれば史郎に誤解を与えず、暫く様子を観る必要があることを理解してもらえるだろうか?
「・・・・悟?」
正直なところ、これまでも史郎や諏訪さんたちが知らないだけで、今回のような現象が起きていたのではないか?とするのが僕の推測・・・・いや、データがあるわけではないから憶測だ。
「・・・・おい、悟?どうした?」
楓の口から思いもよらず長兄、楓さんの名前が出た時は僕も動揺した。少し冷静になって客観視してみると、24時間体制で誰かが楓に張り付いていたわけではない。
「おい!悟!」
そう思うと単に徹夜続きで疲労が蓄積した常人でも起こり得る現象だった。と、するのが妥当だ。
だが、16年間、楓の記憶の蓋が外れる脅威を堪え抜いてきた史郎に僕の憶測に過ぎない考えを伝えたところで・・・・
「悟!お前、独りで突っ走るなよ!」
「あっ、ごめん・・・・少し考えを整理していて・・・・」
周囲に気を配りながらも幾分、力のこもった史郎の声音に我に返った僕を見ると史郎は「はぁ」と一つ大きなため息をして
「今の悟の思うところを包み隠さず教えてくれ!」
懇願するような眼差しを向けた史郎に「憶測に過ぎないが」と、前置きをした上で、ついさっきまで頭の中を逡巡していた僕の考えを正直に伝えることにした。
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