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「悟は、様子見で問題ないと思っているのか・・・・」
僕の憶測を反芻するように呟いた史郎は僕が思っていた反応とは違っていた。
ついさっきまで、どうやって史郎に伝えるかを考えていたことが時間の無駄だったと思えるほど冷静な史郎に違和感を覚えた僕は
「まさかとは思いますが、今回の現象を体験していたのですか?」
と、少し責める様に語気を強めた。
いや、本当にまさかとは思うけどな!知っていて僕に伝え忘れていたなんてことならば、さすがの僕でも怒りたくなるぞ。
「な、わけないだろう?あれば事前に話している」
「安心しましたよ」
「信用ないんだな、俺・・・・」
一人称が『俺』になる時の史郎は素が入っている。こんな場所で素が出るということは、見た目ほど冷静ではないのかもしれない。
そうだよな。16年間、堪えてきた脅威だ。こんな場所だからこそ、取り乱すことなく僕の話に耳を傾けられるのかもしれない。
「史郎は、どう考えているのですか?」
僕にだけ話したいことがあるのだろう?しかも、その話は楓の前では話せないことで、楓の耳には入れたくないことだ。
「史郎の考えを聴かせて下さい」
「そうだな・・・・場所を変えないか?」
そう来たか。ここでは話せない内容ということだ。
「夜鏡池の畔で風にあたらないか?」
「そうですね」
考えあぐねているのか?複雑な顔をした史郎に促されるまま、僕らは夜鏡池の畔に向かった。
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