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『今、どこにいますか…?』
私は、私自身に問いかける。
今…私は自分の家にいます。
さっき、起きたところです。
それで今…とても美味しい朝ごはんを食べています。
今日の朝のメニューは、五穀米に、お豆腐とお揚げのお味噌汁、それと、甘~い卵焼きにウインナー、ほうれん草のお浸し。
あ…デザートに私の大好きなフルーツヨーグルトも添えてある。
全部…とっても美味しい…
「すごく、おいしかった!ごちそうさまでした…!」
私は元気にお母さんに告げる。
「うんうん…香織、凄い…全部食べたね、お母さん嬉しい…」
お母さんが、不意に涙ぐむ…。
え?なんで…??
朝ごはんを完食したぐらいで涙ぐむなんて、
お母さん、大袈裟過ぎるよ…?変なお母さん…!
「香織、今日は部活がある日だっけ…?」
スーツ姿のお父さんが新聞片手に、朝の珈琲を飲みながら私に問いかける。
「うん、今日は部活がある日~!大会が近いから、練習三昧だよ…すっごくきついけど、レギュラーに選ばれるように、とりあえず頑張ってみる!」
「そうか… 本当にすごいな、香織は…その調子で、めいっぱい頑張れよ!」
お父さんは…お母さんとは違って新聞から顔を隠すようにして、こっそり涙ぐむ…。
え??
お父さんまでどうしたの…?
部活を頑張るって言ったくらいで涙ぐむなんて、
お父さん、大袈裟過ぎるよ…? 変なお父さん…!!
「香織!あんたさ、別のクラスに好きな人出来たってホントなの…!?」
4つ上のお姉ちゃんが、美容のために自分のためだけに作っている緑色の少し美味しくなさそうにみえるスムージーを口に含みながら、私に興奮した表情で聞いてくる… そんな、興奮しないでよ…飛沫が飛ぶ~~!
「えっ…っと…なんで…知ってるの…お姉ちゃんには話してないのに…えーー…やだ~~もう…」
「私の情報網…なめないでよ…いや~~しっかし良かったわ…香織が、恋だなんて…お姉ちゃん、すっごく…すごく、嬉しいよ…」
そう言って、お姉ちゃんが…私の顔を見てやっぱり… … …。
本当に…なんなの… …?
みんなして、私が発言するたびに、ウルウル…涙ぐんで…
訳が分からない…
私、何かしたかな…? さっぱりわからない…
『今、どこにいますか…?』
私は私自身に問いかける。
私は今、自宅で元気に過ごしています。
私が今いるのは… …
もう…真っ白な壁に囲まれた、あの場所じゃない…。
真っ白な服を着た優しい人たちに囲まれた、あの場所じゃない。
沢山の…幸せな生と…悲しみに暮れる死が…交じり合うあの…明るくて、暗い…そんな場所じゃない…。
普通に…元気に毎日…
ずっと行けなかった高校にも今は普通に通えてるし、部活だって。
お父さんとお母さんと、明るいお姉ちゃんと家族4人で暮らせて本当に幸せ。
『今、どこにいますか…?』
私は… 香織だ… 香織 …
心臓に…大きな欠陥を抱えていて…いつ、…本当にいつ、どうなるかわからなかった…。
私が高校1年の時に、突然バスの中で倒れてから…
お父さんもお母さんも…お姉ちゃんも、ずっと病院で私につきっきりで毎日泣いていた…
だって、ずっとずっと…私の症状が良くならない… もう…私もダメだと思った…
本当に悲しいけど、みんな、バイバイって…
意識が…生きる力が…途絶えそうになった
でも…
遠い空の向こうから… 沢山の…本当に沢山の人の涙と愛を吸い込んだ、誰かの…
私に届けられた誰かの大切な…命
その、大切なものが…今…
私を…こんなにも明るく、輝かせてくれている…。
本当にありがとう…。
ずっと…絶対、大事にします…
『今、どこにいますか…?』
私は 香織…香織の…身体の中に…
この純粋な…必死に病と闘い続けてきた心優しい、女の子の…
この子の心にくっついて…一緒に生きて行く…
食事も、部活も、恋も…
幸せに、暮らしていくから…
だからお願い…
お父さん、お母さん…
ちょっと生意気な卓也と…おばあちゃん…
もう、泣かないで…
私を忘れないでいてくれたら…
それだけで、もう十分…
ずっと大好き…ずっと見てるから…。
ね…?
だからお願い…
ちゃんとご飯食べて
遠くで、懐かしい声が聞こえる…
『久美… 今、どこにいますか…?』
私…?
私は…
私は、前とおんなじ…
「とっても温かい、家族の中にいます」
~fi n~
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