拝啓、機械仕掛けの醜い魔女へ

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 機械なら死ぬことはないし、魔女ならもっと長く生きる。  つまる所、彼女は本当にただの人間だったのだ。  だから簡単に死んでしまうし、解を間違えたりもする。  だから私は── 《独りになってしまった》  とてもとても聡明な魔女の、たった一度の計算ミスが、私を孤独にさせた。  機械に自由は理解できない。  元々機械は命令にない行動を、実行できないのだから。 『君には「感情」をプログラムしてある。人間の感情が動く過程を、コピーしたんだ』  去り際、彼女が告げた一言を思い出す。  けれどそれも、きっと嘘なのだろう。  現に今、一人遺された私は、取り立てて悲しくもなかった。  機械としての在り方と、主である彼女の命令の矛盾に、私はただ困惑していた。  バグだ。こんなもの、バグに過ぎない。 「ふむ、それが「感情」ではないのかね?」  彼女の遺品整理に訪れた旧知の学者が、私に言う。 「そも人間自体が「感情」を理解していないんだ。だから特定の誰かを集団で批判するし、平気で醜い陰口だって叩く。他人の気持ちなんかより、自分達の一時の快感の方が遥かに大事だからね。  誰かが傷付いても、自分の自慰さえ気持ちよければ、それでいいのさ」  きっとこの世界には、ご自分以外の人間は生きていないんだろうね。  苦い表情を隠しもせずに、学者は吐き捨てた。
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