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学者が忌避する感情も、その言葉の意味も。機械の私には理解できない。
ただ、ほんの少し。人間も、そう良いものではないと思った。
「その点、君の思考は柔軟。且つそこらのクソ馬鹿自慰ジャンキー共より、遥かに聡明で純粋だ。
流石は彼女が産み出しただけの事はあるね」
「造形も完璧だし」と置いて、彼は立ち上がる。
長らく掃除を怠っていた魔女の部屋は、随分と綺麗になっていた。
《有り難う御座いました》
「構わんよ。それより君は、これからどうするんだい?」
「どうする」と聞かれて、私はデータベースを探る。けれど、見つからない。
《不明です》と答えた私に、彼は一枚のディスクを手渡した。見覚えのないディスク。
けれどその表に走る文字だけに、見覚えがあった。
《この筆跡は》
「彼女から、君へ。AIによる裁定は、これを見てからにするといい。……僕には何も残してくれなかったのに、妬けるねぇ」
「じゃ」と残して去っていく彼を見送って、私はディスクを読み込んだ。
流れていく機械言語。奔流する、魔女の「願い」。
『take_while{|n| n <= 100 }.(' Live you're life')_and{|n| n <= 100 }.(' as a human')_to{|n| n <=.(my baby)}』
情報を追う度に、私は壊れていった。
魔女の願いを私は理解出来た。出来て、しまったのだ。
《人として、人生を生きろ――我が子よ》
わからない、理解できない。
理解できないのに、私の中の「何か」はボロボロと崩れていく。
【警告:システムに重大な負荷。処理不能。エラーコード:IE3000】
修復、できない。
私を創り、壊した彼女じゃないと、修復できない。
彼女が必要だ、と思った。初めて自分の意思で、彼女を求めた。
《人間とは、なんですか?》
人知れず問いかける。
答えは返ってこない。あの憎い魔女も還ってこない。
私はもう、独りで答えを模索するしかない。
この孤独が人間だと言うのなら、私は誰よりも人間でいられたのに。
《きっとこれは、恐怖です》
涙は出なかった。
機械の体は、人のように誰かと寄り添い眠ることが出来なかったから。
いつしか私の手は、彼女を「創る」為に動いていた。
与えられた「自由」を行使して──
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