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趣味は人生
裕福な家庭で育って、何不自由なく、人生のレールが用意されることもなく生きてきた。
お嬢様が通う女子校、トップレベルの大学を首席で卒業して、大企業の秘書課で働き、お金も時間も全てが自由な日々。
「おはようございます」
「あ、おはようございますっ」
8センチヒールを鳴らして出社。エレベーターに乗り込むと営業課の人と一緒になったので挨拶すれば、頬を赤らめ上擦った声で返された。
彼は恥ずかしそうな顔をして、隣の同僚に今にも泣きつきたそう。
自分の階に着いたため再度挨拶をして降りれば、扉が閉まる直前「めっちゃ美人だしいい匂いした…」なんて1つ間違えればセクハラ発言と言われても仕方ないようなセリフが聞こえた。
私のいる秘書課は美人の巣窟なんて言われていて、男も女もレベルが高いともっぱらの噂で、確かに綺麗な人は多いと思う。
でも、1番綺麗なのは私だと思うけど。
そう思いながら自分のデスクに近づくと、背後から誰かの気配を察知した。
「おはよう、小陽さん」
「おはようございます。今日も素敵な笑顔ですね」
声を掛けてきたのは社長の息子。今は副社長で数年後には社長になれるだろうと言われてる優秀な上司。
「今夜どうかな?」
「すみませんが、前にも申し上げた通りお断りさせていただきます」
「そっか。でも諦めないから」
そんな彼に入社してから半年も口説かれ続けている。
よく言えば一途ないい男。悪く言えば執拗で面倒くさい男。
彼の誘いを毎度断っている私だけど、最近断るのも疲れてきてしまった。
特に興味が無いから断っているというのに、
「本当調子乗っちゃって。なんなの小陽さん」
「将来の社長夫人の座に何が不満なのよって感じよね」
陰口を叩かれている。とんだ被害だ。
口説かれるのは彼だけじゃなく、他の部署の男性にも口説かれることはしばしばあり、さっきみたいな冷たくバッサリと切るような対応をしているせいか〝氷の女帝〟なんて呼ばれるようになったみたいだけど、そんなの別に気にしてはいない。
好きに呼んでくれて構わない。
「小陽さん、これお願い」
「分かりました」
「あぁ、後これも。30分以内に持ってきて。1秒も遅れずにね」
「はい」
朝のこともあったせいか、私に対する同僚の態度を冷たく感じながら仕事を済ませると。その日の夜、高校時代の唯一の友人とイタリアンディナーをしにお店へ足を運んだ。
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