2人が本棚に入れています
本棚に追加
「乾杯」と合わせたグラスはいい音をたてて、久しぶりに会う私達を歓迎した。
こだわりのパスタとソースをフォークに絡めて口に運ぶと、良いワインを上品に飲む。
食事もほとんど済んだ頃、
「聞いてよ、お父さんに結婚相手を勝手に決められたの。勝手に。政略結婚ってやつ」
突然愚痴を吐き出された。
お父さんか結婚相手か政略結婚か、それとも全部になのか。
「ご愁傷さま」
まぁ、私の人生じゃないから関係ないし特に興味もないのだけど。
「ちょっと、もっと他に言う言葉があるでしょ。慰めるとかさ…もう、冷たいなぁ」
そんな事言われてもね。
私の性格を知って今の今まで付き合っているくせに、今更何を言ってるんだか。
でも、聞いてあげないこともない 。
「それで相手は?」
「NNCの息子」
あぁ、あの大企業の息子さん。
お金も地位も、それに顔も整っていて申し分ないと思うんだけど。
「何が不満なの?」
「お父さんが決めた事」
「なるほどね」
彼女の心底嫌そうな声を、ワインと一緒に胃に流し込んだ。
この子、未だに父親のことが大嫌いらしい。
昔から厳格な人で頑固。子供には完璧を求めるような人間だから大変そう。
と思っていたけど、人はそう簡単には変わらない。
「でも、相手のことが嫌いってわけじゃないのね」
私は分かりきっていることを、わざと言葉にして彼女に渡した。
「当然よ。爽やかな犬系男子で、優しくて気遣いも仕事もできる。申し分ないくらいだもん」
なんたって、この子の好みドンピシャ。
ただ、父親が決めた相手だということに不満を抱いているだけで、それ以外に問題はないのだと。
最初のコメントを投稿しよう!