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「はぁ……じゃあ何が楽しくて生きてるの?」
今日は随分と切り込んでは色々言ってくれるじゃない。
「失礼ね。趣味くらいあるわよ」
この子、そういうところは昔から変わらないんだから。
「え、美那、趣味あるの?」
「えぇ」
「えー、なにそれ気になる。教えてよ」
「嫌よ」
次から次へと興味が移り変わる。
趣味が何かを探ろうとする彼女だけど、少しも教えてあげない。
運ばれてきたデザートを完食して帰る時間になり、お支払いを済ませたあともしつこく「本当に教えてくれないの?ケチ」と不貞腐れた。
この私を面と向かってケチ呼ばわりするなんて、貴女くらいよ。
レストランの前にタイミングよく止まった迎えの車に乗り込む彼女。
「方向一緒だから送るよ」という彼女に断りの言葉を返すと首を傾げられた。
「ちょっと、このあと用事があるの」
「用事って、こんな時間から?」
驚くのも無理はないわ。
確かに22時過ぎから用事なんてって思うかもしれないけど、これは大事な用なの。
「えぇ、この時間じゃないと無理なの」
「ふーん。じゃあまたね、美那」
と彼女を乗せた車が走り出し、小さくなっていくのを確認するとタクシーをつかまえて自宅とは反対方向の場所へと向かった。
訪れたのは二つ星ホテル上層階のスイートルーム。
窓際で夜景を見ながら1959年のムートン・ロスチャイルドを舌の上で転がしながら楽しんでいた。
「いいホテルと夜景には、いいワインよね」
目線の高さに持ってきたグラスを回して街の光で透ける赤ワイン。それは美しくも儚く見える。
もう一口と、グラスの縁に口付けた時、コンコンと部屋の扉がノックされた。
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