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「少し早くついちゃった」
この部屋から見る景色ももう4度目。
そして時計の針が22字を回った時、ノックされた扉の音に胸が高鳴った。
「どうぞ」
と声をかけて入ってきた気配を背中で感じとった。
「ご指名ありがとうございます。チェリーです」
嗚呼、この声よ。
しっかり挨拶をしてくれた声はとても懐かしさを感じ、心臓がむず痒い。
「チェリーって、酷い源氏名ね」
振り返ってそう告げれば、男は目を見開いて声も出ず固まったかと思うと、一気に真っ青になった。
「お久しぶりです。先生」
彼は、私が通っていた女子校の時の先生で、若くてかっこよく、分け隔てなく優しいから人気があり。私自身彼に惹かれていた。
そして、先生の私を見る目が他の生徒と違うことにも気づいてた。
だけど、そんなある日、先生は突然学校を去った。辞めるなんて言葉を本人から聞くこともなく、姿を消したの。
あれから5年、ずっと探していた。
「見つけるの、大変だったんですよ?見た目も名前も変わっていて、先生に似ている人を買ったけどどれも本物には辿り着けなくて。やっと本物に会えたんですから」
「なんで…」
なんで、なんて貴方が言うべきじゃない。
「それはこっちのセリフですよ。なんで突然、学校を辞めたんですか」
そう問いかけた。けど、その理由も先生を探している過程で全て知ったわ。
本人の口から言って欲しくて言ったのだけど、目を逸らした彼はバツの悪そうな表情をして、言いたくないみたい。
「ご両親が、多額の借金を返しきれずに自殺してしまったんですよね」
「どうして、その事を…」
「知っていますよ。まだ半分以上残っていることも」
金持ち学校の学校教員だと言えど、いくら頑張って働いても返せる額じゃなかった。だから体を売ることを決めた。
それでも、まだまだ返済の道は遠く、もし返せたとしても、きっとこの世界からはそう簡単には抜け出せない。
彼もその事を分かっていないわけじゃないだろうに。
「先生…いいえ、チェリーさんももう35歳ですよね。恋人や家族は?」
「いませんよ。そんなもの」
自分を嘲笑うように吐き捨てられた言葉。地雷を、踏んでしまったかしら。
でも、私は心からホッとした。
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