1(伊月視点)

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1(伊月視点)

(え……俺ってβじゃなかったか?)  現在、4月4日。新学期始まる前の登校日。来週から始まる新学期に向けての準備があった。その帰りのホームルーム、教室の窓際一番後ろ、後ろは掃除ロッカー。 梓伊月(あずさいづき)はその席について、一枚の紙を見た。  この世界には、男と女の他に第二の性別、バース性が存在する。バース性は大きく分けて3つある。全体の70〜80%を占めているのがβ、10%前後にα、1%にも満たないΩ。  Ωは、一ヶ月に一度、発情期というものがきて、αと時にはβの性衝動を引き出し、惑わすフェロモンを出す。男でも女でも子供を妊娠できる。抑制剤である程度抑えらるが、完全ではない。しかし、αとの特別な繋がり、番という結婚よりも結びつきが強い関係になると、Ωフェロモンはつがいのαにしか効かなくなる。  αは体格や知力などが優れていることが多く、実績を残している人の大半である。この性はΩのフェロモンを浴びるとラットという暴走状態を引き起こし、普段を抑えられている性衝動や本能に逆らえなくなる。 βはこのどちらも当てはまらない。  このバース性を判別するための検査が先日、行われた。基本的に6歳の時に受けた検査の結果と変わることはないが、ごく稀にバース性が変転する場合が起こる。6歳の時は未発達であった場合以外に変転する原因は検査のミスや、事故の影響などのさまざまな要因で変転する。 伊月は6歳の時の検査ではβだった。しかし、担任の先生から渡された診断書にはαと書かれている。 (…………………何かの見間違いだ) 窓の外の空を見て、深呼吸してから、もう一度診断書を見た。 (………αにしか見えない…まじか………βってだけでいろいろあんのにαとか…めんどくさくなりそうだからできるだけ黙っとこう。) αは他人から羨ましがられる対象だったり、妬みの対象になることもある。αってだけでいろいろな人がさまざまな目論見で寄ってくるっていう話もある。 「何度見ても診断書に書かれてることに99%間違いはないと思うよ?」  隣の席に座っている水無月柚花(みなづきゆずは)に声をかけられた。去年あることがきっかけになってから、話すようになった今では俺の数少ない仲がいい友達である。水無月はこの高校ではあまりいないαだ。 「だよな…あー、市役所行くのめんどくせ〜…」 「それもだけど、病院もだよ」  性別の変転が起きた場合、性別変転の手続きに行かなくてはならない。それにαならば、ラットがある。ラットによってαによるΩ強姦事件が昔はよくあった。自営のためにもα用の抑制剤がいる。この抑制剤にはもう一つの効果もある。αにもフェロモンがあり、そのフェロモンに当てられたΩは発情期を誘発されることがあるため、それを抑える効果がある。 「あー、それもか。ちょっと色々聞きたいから後で質問していー?」 「いいけど、それ、新も聞いて平気?今日、新の病院に付き添う予定だったからさ」 「時間平気ならお願いしたい」  水無月と立花新(たちばなしん)は幼馴染みで、水無月いわく、運命の番らしい。立花は全くそのことには気づいていない。  運命のつがいとは、αとΩが出会った瞬間お互いに惹かれ合い、たとえその人を嫌いでも、憎んでいても離れられないものらしい。都市伝説とまで言われているが、水無月と立花、それに、水無月のお父さんたちと立花のお母さんたちは運命の番だと聞く。偶然は重なるものである。果たしてこれを偶然と呼んでいいのならば。  ホームルームが終わって帰り支度をしてると、立花が水無月と伊月のところまで来た。 「あ、新!あのね、梓が、ちょっと話したいことあるから病院行くの少し待ってって。大丈夫?」 「はーい。じゃ、俺どこで待ってればいい?」 「できれば立花にも聞いてもらいたいから、校舎裏いかね?」 「わかった」  放課後の校舎裏は人通りが極端に少ないというか、使う人はいない。だから、話を聞かれることはないだろう。カバンにしまってあった診断書を取り出して立花に渡しつつ話す。 「さて、じゃ、もったいぶっても仕方ねーからストレートにいうわ。俺、αに変転したらしい。何回見ても診断書にはαって書いてあるんだわ」 「え、本当だ…でも、梓くんって今までΩフェロモン効いてなかったよね?俺の近くにいても全く反応なかったし。」 「多分。少なくとも今までは、立花のは全く反応してないと思う」 「梓ってさ、βよりのαなんじゃない?もしくはフェロモン効かない体質なのか。」  αとΩにはその性別の濃度がある。少しでもどちらか入っていればその性別になる。そして、その濃度の濃さが強ければ強いほど、その性別の特徴が色濃く出る。逆に濃度が低ければ低いほどβとほぼ変わらない。 「そうかもなぁ。αって出た以上はβよりはΩフェロモン効きやすいだろうから、病院行って抑制剤もらわねーとな」 「じゃあさ、新が病院でみてもらってる間、暇だから近くの私が行ってる病院紹介したげる!私もいっくん、あ、私のαのお父さんも若いころ行ってるから!」 「そりゃ助かるわ。俺の家全員βだからよくわかんねーし。水無月たちが行ってるなら安心するわ。」 「そうと決まれば、早速、、あ。水筒忘れた!取ってくるからちょっと待ってて〜」  水無月は教室に走っていった。さっきから新が無言だ。なんとなく、拗ねてる雰囲気があるのは気のせいではない。 「おーい。立花さーん?水無月と同じ病院行くってだけで拗ねられても困るんよ〜…」 「別に、拗ねてないもん…」 「いやいや、拗ねてるでしょ、それ。」  α同士でも結婚はできるから、多分、それを懸念してるんだろうけど、水無月をどうこう思う前に新の存在で全員諦める。この二人の間には入る隙は一切ない。諦められなくても、水無月を振り向かすのは不可能だし、新に手を出そう物なら、水無月が番犬の如く噛み付く。 「別にお前から水無月取ろうなんて一ミリも考えてないんだけど?」 「なっ…!取ろうとか、取らないとか、そう言うんじゃないんだけど!!」 「ムキになりすぎて、説得力ねーなぁ」  本当、この二人は面白いなとこの頃思う。思い合ってるのに、立花の方は無自覚で、水無月は自覚させたいけど立花に怖がられたくないから踏み込めずにいる。なんというか、突きたくなるけど、見守ってやりたいって言う矛盾した気持ちも生まれる。 (お互い大事にしあってるから、すごい羨ましいと思う。いつか俺にも運命の番が現れるのかな。いや、確率が低すぎるから期待するのはやめよう。)
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