2 (伊月視点)

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2 (伊月視点)

翌日の朝、学校の最寄駅から徒歩で学校に向かっていた。 (薬毎日飲むのめんどくさい…忘れそうになる。) 今朝、抑制剤を飲み忘れそうになり、母親が気づいて知らせてくれたぐらいだ。 「あーずさ!おはよう〜。ちゃんと抑制剤飲んだかー?」 「水無月、立花も。はよー。」 「おはよう、梓。」 「っていうか、おい、水無月。抑制剤とかでかい声で言うなよ。今更αだなんだって言われんのめんどいんだけど」 今のご時世、どこで誰が聞いてるかわからないし、噂は結構早めに広がる。変転なんてめんどくさいことこの上ないんだから、これ以上面倒は増やしたくない。しかも、αだ。 「ごめん。ある意味慣れてたから感覚おかしくなってたかも。」 「悪気ないのはわかってるから許すけど、できれば気を付けてくれると助かるんだがな。」 「善処するよ。」 少しの間そんな会話をしていたら早くも学校に着いた。学校の入り口に入学式の看板が立てかけてある。 「そういえば、今日入学式だったね。俺たちが入ってからもう1年経つんだね。」 「そうだなー。もう2年だしな。まぁ、それより、クラス見に行こーぜ。」 校門をくぐり、しばらく歩くと昇降口がある。いつもはその中の下駄箱に向かうが今日に限っては、昇降口の横にクラスが貼られている。まずはそれを見る。 「俺は、3組か。」 「え!梓、3組?!じゃ、今回もみんな一緒だ!!」 「まじで?じゃあ、立花も3組だったんだ」 「うん!よろしくね、梓!」 なんとなく予想はしていたけど、嬉しいもんだな。この時の俺は、予想していなかった。この数分後に来る、運命に翻弄される時間の始まりが。 クラス発表を見て、三人で教室に向かう途中、ふと伊月は、中庭を見た。桜吹雪が舞う中、一人の男が立っていた。 (なんだろ。もう少し見ていたい気がする。) 「伊月?どうしたの?」 「んー、なんでもない。先行ってて〜」  もう少し見ていたい、というか、話したい気持ちがあったから、また時間に余裕はあるし、その気持ちに従って中庭に出た。伊月の身長は179ぐらいあるから、この子は165といったところか。少し小柄だった。上履きの色は赤、と言うことは新入生。この学校は学年で上履きと名札、ネクタイの色が違う。今年は1年が赤、2年が青、3年が緑だ。 「どうかした?赤ってことは新入生だろ?」  声をかけた。すると、声をかけられた小柄な男は、伊月の方に振り向いた。今にも消えていまいそうな、儚い印象だった。  (この甘い匂い、なんだろ。噛みたくなる匂い…)  その瞬間、沸騰したみたいに全身の血が熱くなった。頭の中で本能が叫ぶ。『運命』だと。気づいた時には彼の手を握っていた。心臓が高鳴るのがわかる。脳が、この子だと叫び、今まではこの頭の中で眠っていた、αとしての本能を呼び起こす。  振り向いた瞬間に手首を掴まれた彼は驚愕した顔を見せた。その瞬間、彼から甘い匂いがして本能を揺さぶられる。 「はい!そこまで!!梓は離れて!!」  突然後ろから、水無月に引っ張られた。その時、目の前にいた彼は座り込んでしまった。 「大丈夫?!今、保健室連れて行くから」 「いいです!あなた番のいないαですよね?」  水無月が、保健室に連れて行こうと彼に手を伸ばしたが、振り払われた。 「そう言う反応するとは思ってた。けど私はΩフェロモン効かない体質だから、絶対にあなたを襲わない。」  水無月の顔をみて、おそらく効かないと言うのは間違いじゃないのかもしれないと、彼は思っただろう。 「すみません。お願いします」  一定の距離を保ったまま、伊月は水無月と、水無月を手伝っている新のあとについて行った。保健室の中から、水無月と立花が出てきた。 「梓?なに変な顔してるの?」 「いや、この状況の対処方法がわかんなくて、戸惑ってる??と思う。」  多分、これは戸惑いであっているはず。なにをどうしたらいいのか。どう声をかけたらいいのか。謝ったほうがいいのか。対処方法をまるで知らない。 「そりゃそーでしょ。運命の番に会う確率なんて、一生に一度あるかないか。むしろ、ない人のほいが多いんだから当たり前よ。」 「え?運命の番?」 「そう。さっき運命の番を見つけた梓の中のαとしての本能があのΩの子を番にしたくてフェロモンを出した。なんでかわかる?」 「番にしたかったってことは、αフェロモンはΩの発情期をおこせる?」 「そう。だから、運命の番を見つけたΩがほぼ確実に発情するのはそういう仕組みだから。それに、本能が叫んだんじゃない?この子だ。運命だって。」  今にして思えば、その子を見かけた時からどこか離れがたかった。ずっと見ていたいと思った。そんな気持ちは一度も味わったことはない。 顔を見た瞬間に本能が暴れる感覚があったから、無言で頷いた。 「あの子と話したいんじゃない?とりあえず、抑制剤飲んでるんだからあの子のフェロモンにあてられてもラットになる心配はないと思うけど?」 あの子と話したいと思った。 「ありがとう。」
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