最上みずき

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最上みずき

 翌朝、浩司は痛みと共に目が覚めた。昨日、ヴォイクに蹴られた場所が痛む。辺りは自分がかつて住んでいた部屋とは程遠く、綺麗にされていた。 「腹減ったなぁ?なんか食うものないかな?」近くの冷蔵庫やら棚を漁った。 「カップ麺やらお菓子がいっぱいある。勝手に食べていいのかな?好きにしろとは言ってたが殺されたら嫌だしな?念のため言っておこう」  廊下に出て、昨日指紋センサーでロックを解除するドアの前に立った。ダメ出しでハンドルを押してみる。  どうやらこちら側からはロックを解除しなくても開くようだ。そして事務所に入った。ヴォイクがコーヒーを飲みな がら、電子タバコを吸っている。ヴォイクは俺に気づいて話かけてきた。 「そこに朝飯用意してある。俺は飯は気が向いた日しか喰わん。全部喰え。後、お前風呂入ってないだろ。服も汚ねえし。そこにお前の服あるから、飯食い終わったら風呂入って、着替えてこい」 「あっ、ありがとうございます」  僕はテーブルの上にある朝食を食べた。この事務所は何故か半分は探偵事務所のような作りで半分は喫茶店のような作りになっている。そしてこの喫茶店のような所は昨日の喫茶店の作りに似ている。 「あっヴォイクさん……ちょっと聞いていいですか?」 「なんだ?」 「この場所って喫茶店みたいですよね」 「ああ、、まあ、普段はそこは使うことはない」 「あの、昨日行った恵里香さんの喫茶店に似ているんですが」 「・・・・・・」 ────ヤバい。聞いてはいけない事聞いたかも。 「気のせいだ。早く食えっ」 「あっ、はい」  俺はさっと食べ終わらせて、服を持ち部屋に向かった。指紋センサーの場所は何故かロックが解除されてあった。  部屋に入り、シャワーを浴びて着替える。そして、またヴォイクの居る事務所へ。   事務所に入るとヴォイクは誰かと電話していた。「ああ、はい。分かりました。」昨日とは違って敬語を使っているように思えた。 「最上みずきの処分が決まった。最上みずきはあのサイトのボスに500万払う事で今回は見逃すようだ」 「500万!直ぐにですか?」 「いやっ、10ヵ月以内にだ。それで今から俺の知り合いの店で働かせる」 「知り合いの店って風俗?それは……」 「風俗ではない。キャバクラだ。大体その女は少し前までパパ活をしていたんだ。お前の勝手な理想で純粋とか決めつけるな」 「えっ!パパ活……そうだったんですか……」 「20代の20人に1人が風俗をしている。経験した事ある奴も含めればもう少し多いかもしれない。それとお前はあまりにも世の中を知らなすぎる。お前も金に困るように誰もが困ってる。だから仕方なくってのも居れば、まあ、それが好きでってのもいる」 「そうですよね……。んっ?じゃあ、あのサイトを通じてパパ活をしていたんですか?」 「そこが謎なんだ。最初パパ活をし始めた時と、サイトを使ってパパ活をし始めた時期が妙なんだ」 「どういうことですか?」 「パパ活を始めた時期は闇サイトを使う前からなんだ。きっとパパ活してる間に誰かから教えてもらったんだろう?そいつがどうやら真犯人みたいだな」 「じゃあ、みずきさんは悪くはないんですか?」 「いやっお前にサイトを教えた時点でアウトだ。後、あのサイトを開いた時点でもな。あのサイトは裏の人間の転職サイトだからな」 「裏の人間の転職サイト?」 「まあ、いい。今から最上みずきを迎えに行くぞ」  そう言ってヴォイクに車の場所まで連れていかれた。車は3台ある。その中のロールスロイスに乗った。「あの、すみません。お願いします」ヴォイクは何も言わず運転し始めた。  車の中ヴォイクの左手をチラッと見た。左手の薬指に指輪がしてある。 「あの、ヴォイクさんは結婚してるんですか?」 「……さあな。」 「なんで指輪してるんですか?」 「……1つの思い出だ。別に結婚してるから指輪をするとかは俺には関係ない。俺は女と二度と一緒に居る事はない。だから敢えてつけてるだけの事だ。まあ、お前がそう思うのも無理ないがな」  この時、始めてヴォイクの優しそうな顔を見た。 「ヴォイクさんはなんでこの仕事を始めたんですか?」 「金のためだよ」 「それだけが理由なんですか」 「ああ、そうだ」 「お金のためなら他にも色々あるんじゃないんですか?」 「じゃあ、何故お前は闇バイトを開いた。普通の仕事より金稼げると思ったからだろ?後、上のヤツラに色々言われたくない。違うか?」 「……はい」 「何故、世の中に働かない奴が沢山居るか分かるか?働かないじゃなく、働けない。人は失敗をすれば怒られる。だがな、実際は違う。人は怒っても大丈夫な奴、立場の弱い奴を怒る。要するに世の中全体がいじめって訳なんだよ。そこに取り残された奴が働けないだけだ。そいつを変えても世の中が変わらなきゃ何も変わらないだろう?俺はそんな世界で生きるのが嫌なんだよ」 ──この人は僕と同じだ 「ヴォイクさんも普通の仕事してたんですか?」 「ああ、昔はな……あの時は世の中に対しての怒りや憎しみが強かった。結局、力のあるものが上にいく。俺は中卒だったから金もなかったよ。まあ、女と週末一緒に居る時は幸せだったかな」 「高校行ってないんですか?えっじゃあ、何歳の時からこの仕事を始めたんですか?後、やっぱり彼女とかいたんですね?」 「よく聞くやつだな?まあ、いいが。高校は中退だ。色々あってな……。この仕事は俺が30になる前だよ。始めて10年は経つか……28歳まではろくに給料も上がらない会社に居たよ。肉体労働で毎日朝早くから夜遅くまで仕事していた。それでも僅かな給料だ。そんな生活に嫌気がさしたんだよ。守りたいものも守れない。所詮世の中は金だ。色々気づかされた。まあ、そんな所だ」 「もう1つ聞いていいですか?」 「あっ、なんだ?」 「昨日、全てが闇なのかもな?ってのは?」 「ふっ、そんなのも分からないのか?じゃあ、聞くが、いじめはしてはいけないが正義ならいじめをした事ないやつどれだけいる?」 「ほとんどの人がしてないと思います」 「ふっ、逆だな。ほとんどの人間がいじめをして生きてるんだよ?したことない人間の方が少ない。結局なにかを正当化するために人は存在するんだよ。俺の方が優れているとかそんな気持ちの人間ばかりだからな」 ───確かに 「お前も大学なんて親に言われたから流されてだろ?結局の所自分の道を親が決めた。お前が大学を辞めたら親は何も責任をとらないわけだ。子供がしたことだからと。逆に全てを親の責任にしてる奴も居る。親も子もお互いに責任を持つからお互いを分かり合えるのにな」  この人は何もかも分かっているように思えた。美月恵里香が言っていた優しさなのか? 「ヴォイクさんは優しいんですね?恵里香さんも言ってました」 「優しい?笑えるな。お前は優しさに対して誤解をしてはいないか?赤の他人に優しく出来る程、俺は甘くはないな?それと優しい人間なんているのかも分からない。嫌われたくないから作ってるだけの奴らをアホどもは優しいなんて言うけど、全て自分のためだ。人のためになんて偽善者しか居ないだろ」 偽善者……俺はしばらく考えてた。
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