メアリーさん

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メアリーさん

「今どこにいますか?」 「家だけど。お前誰?」  ブツリ。  奇妙な電話だった。  程なくしてもう一度、同じ番号から電話が掛かってきた。 「わたし、メアリーさん。今、あなたの後ろにいるの」  突如掛かってきた、いたずら電話。しかしどうやら、いたずらではないらしい。  俺が住んでいるアパート『獅子宮』は、チャイムが鳴ったと思って玄関を開けると、鳴らされたのは3つ先の部屋だった、なんてことがしょっちゅうあるからだ。  そう。いたずら電話の声の主が俺の後ろ、つまり隣の部屋にいることは明らかだった。  正面の壁が叩かれる。うるさくてスマン。  だがその音源はひとつ向こうなのだ、隣人よ。  メアリーさんとやら。俺の背後を取ったつもりだろうが、残念。俺の背後は隣の部屋。そこは首吊り、脳卒中、心不全、溺死、餓死と5人が立て続けに死んでいる、いわくつきの極みみたいな部屋だ。  再度電話が鳴る。 「わたしメアリーさん。助けて! 今すぐ助けて! なにこれ! いや! いやああああああ!!!」  電話が切れると同時に正面の壁が叩かれる。うるさくてスマン。  だが騒いでるのはひとつ向こうなのだ、隣人よ。  再度電話が鳴る。  出ないで切った。 「どうして出てくれないの!! 助けて!! 誰か!! 助けて!!」  正面の壁が叩かれる。うるさくてスマン。  だが騒いでるのはひとつ向こうなのだ、隣人よ。  隣がぎゃあぎゃあ五月蝿い中、ふと思いつく。メアリーさんとやらは俺の後ろに存在する。  ならば俺が反転すればメアリーさんはそれに従って移動するのではないだろうか。  俺はくるりと180度回ってみた。 「何だお前! うわああああああああ!」  隣人の叫び声が響き渡った。  正面の壁が5回叩かれた。
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