6人が本棚に入れています
本棚に追加
日曜日、祭は何事もなかったように行われ、いつも通りに無事終わった。
Sの家の様子を見てみたが、どこかひっそりとしていた。やつれた感じのSのお母さんに声をかけることは出来なかった。
月曜日、学校にもSは来ていなかった。出席を取る時、先生はSの名前のところで少しだけつっかえ、Sの名前を言わずに先へ進んだ。Sの座っていた席はぽつんと空いていて、一部のクラスメイトは不審そうな眼を向けていたが、誰も深く詮索せずスルーしていた。
翌日からは、先生はつっかえることすらしなくなった。僕と宮田と北野以外のクラスメイトは、Sなんて奴は最初からいなかったように普通に授業を受けていた。
クラスで写した写真からも、Sの姿は消えていた。Sがいた筈の場所には不自然な空間が出来ていたが、気にする者はいなかった。
それから、僕らは今に至るまでSの姿を見ることはない。
これを書くのに、僕はSの名前を「S」としか表記していない。これは別に名前を伏せているわけではない。そうとしか書けないのだ。
僕も宮田も北野も、もはやSの顔も名前も朧気にしか覚えていない。ただ、Sで始まる名前の奴がいて、祭前夜の神廻を見ようとしていなくなった、その経緯だけを覚えているだけだ。
多分これが、神様に「取られる」ということなんだろう。神廻を見たら思い出せるのかも知れないが、その時はもう「取られた」後なのだ。
今年も祭の時期が来る。
その前夜、外で鈴の音が鳴っても、決して見ようとはしないことだ。
この世から自分の存在を削り取られたくなければ。
最初のコメントを投稿しよう!