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友人のSは、中学生の時に斗或市に移り住んで来た。高校に入ってから僕と同じクラスになり、僕や僕の幼馴染みの宮田や北野とつるむようになった。
Sの家は両親とS一人だけが住んでいるには少々広く、その広さを多少持て余しているようでもあった。そんなSの家にみんなで遊びに行った時、Sは僕らにこんなことを言った。
「正直ここでしか言えねえけどさ、神廻って、何で見ちゃいけねーの?」
僕らは顔を見合わせた。何でなんて、この街で育った僕らにはそもそも頭にも浮かばない疑問だった。
「何でって……なあ」
「見たら悪いことが起きるって聞いたよ」
「うん。うちの婆ちゃんもそんな風に言ってた」
氏神様とは言え、日本の神様だ。禁忌を破ると障りがある。多分ここで生まれた者には、DNAレベルでそれが刻み付けられている。だが他所から来たSには、それも単なる迷信にしか思えなかったようだ。この感覚を説明は出来ないし、理解も出来ないだろう。
「今年の神廻は、この辺を通るそうなんだ。……俺、神廻を見てみたいんだ」
それを聞いて僕らは驚いた。多分、僕も宮田も北野も色々言ったと思う。でも、Sの考えを変えることは出来なかった。
それに、正直言えば僕らも好奇心がないではなかった。神廻の夜に何が廻っているのか。だから、当日はSNSのグループチャットにみんなで集まって、Sが見たものを中継してもらうことで話が決まった。
祭の前日、土曜日。僕らは朝からドキドキしながら一日を過ごした。今日ばかりは大人も子供も、誰もが皆早目に家に帰る。いつもは遅くまでやっている塾も、軒並み休みだ。
「今夜は早く寝なさいよ」
母さんは、朝からそればかり言っている。
「外を見たら、神様に『取られる』からね」
その言い方は、先年亡くなった婆ちゃんによく似ていた。
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