神廻(かんめぐり)

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 夜が更けた。  僕はこっそりベッドの中に持ち込んだスマホから、SNSにログインした。自室の窓は父さんが明るいうちにしっかり戸締まりし、厚いカーテンもかかっている。  SNSにはSも宮田も北野も、めいめいに集まっていた。どうでもいいバカ話をしながら、僕らはその時を待った。  しばらくして。 『鳴った!』  Sのアカウントからメッセージが来た。僕はごくりとつばを呑んだ。こちらには神廻は来ていないのに、外から先触れの鈴の音が聞こえた気がした。しゃらん、と。 『鳴ってる』 『だんだん近づいて来る』  しゃらん。ゆうらりと、音が近づいて来る。以前、窓越しに聞いた記憶がまざまざとよみがえる。 『今から窓に行くぞ』  バカ、やめろ。そう打ち込みたくなるのを、僕はぐっとこらえた。多分、宮田も北野も同じだったろう。 『見えた』 『なんか、昔の人の装束みたいなの着てる』 『白い着物』  SNSから、Sの言葉が流れて来た。 『一人じゃない』 『何人いるんだ?』 『あ』  そこで、一旦言葉が止まった。どうした?  次にSが言ったのは、こんな言葉だった。 『兄貴』 『おいS、何言ってんだ? おまえ、一人っ子じゃなかったか?』  宮田がそう言葉をかけたが、Sは見ていないようだった。言葉がどんどん流れて行く。 『なんで』 『おととしまで一緒にいたのに』 『なんでわすれてた』 『最初からいなかったみたいに』 『なんで』 『なんで』 『S、大丈夫か? おい!』  北野が言っても、すぐにSの言葉に押しやられてしまう。 『なんで兄貴がかんめぐりにいるんだよ!』  兄貴? Sの? そんなの知らない。しかもそれが、神廻の中にいるって? 『まずい』 『みつかった』  Sの言葉は悪い方向に続いている。 『こっちにくる』 『しろい』  そこで、Sの言葉は途切れた。 「S? おい、大丈夫か?」 『S!』 『おーい?』  僕らがネット越しに語りかけても、Sは答えなかった。さらに。 【Sさんがグループから離脱しました】  無情なメッセージが表示された。Sのアカウントのホームを見てみても、「このアカウントは削除されました」と出て来るばかりだ。他のSNSも、メールも、電話も、Sに繋がるものは何一つなくなっていた。
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