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秋になり、そろそろ祭の時期が来る。
僕が生まれ育ったこの斗或市の氏神の祭も、ご多分に漏れずこの時期に開催される。皆で神輿を担いだり、沿道に露店が並んだりするのは他所の祭と同じだが、一つだけ違うところがある。
祭の前夜、真夜中に神社に祀られている神様が町を練り歩くのだ。「神廻」などと呼ばれている。
神廻で神様が通るルートは毎年変わる。宮司さんの占いで決まるのだ。何処のルートを通るかは、祭の一週間程前に告知される。その道沿いに住む人達には、特に念入りに。
というのも、神廻には一つの掟があるのだ。曰く、「神様が町を廻っている間、決してその姿を見てはいけない」。
この掟は今でも生きている。神廻は毎年夜の12時から1時の間に行われるが、その間はコンビニですら何某かの理由をつけてシャッターを閉めてしまうし、道路だって工事と称して実質的に通行止めになってしまう。それだけ、この町の者には、この掟は幼い頃から叩き込まれているのだ。
神廻が始まると、しゃらんという鈴のような音が聞こえる。これは「先触れの鈴」と呼ばれ、今そこを神様が通っているという合図だ。音は夜12時きっかりに神社から鳴り始め、町のあちこちを廻ってから1時間後に神社に戻って来る。神様が通って行く道沿いの家々は雨戸やカーテンを厳重に閉め、鈴の音に耳をすませながら神様が通り過ぎるのを待つ。神様の姿を絶対に見ないように、目を閉じていたり布団を頭からかぶったりする者も多い。
それが、毎年の祭前夜の光景だった。
他の土地から引っ越して来た人達には、この風習は異様に感じるだろう。でも、みんな地元の人の圧に負けて、同じように外を見ずに過ごしているようだ。どこにでもある同調圧力だ。
――でも、もし、誰かが神廻の時に外を見てしまったら?
……その疑問を持っている人の為に、僕の高校時代の友人の話をしようと思う。
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