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ルイから伝えられている目印を持つ女性を探し、イルミネーションの前を往来する人々をガン見する。
けれど約束の七時を十分過ぎても、条件に該当する女性の姿を、俺は見つけることができないでいた。
(もしかして俺、タチの悪いイタズラに引っかかった?)
焦燥感にかられはじめた俺の脳内で、嫌なifがふっと思い浮かぶ。
『ルイ』なんて女は、最初からこの世のどこにも存在しないんじゃないだろうか?
必死な非モテの気持ちをもてあそぶクソ野郎に俺は釣られ、見事にだまされているんじゃないだろうか?
「シュウさん、ですか?」
俺が疑心暗鬼におちいっていると、遠慮がちだが突然誰かが背後から声をかけてきたものだから、驚きのあまり飛び上がるようにしてふり向けば、背の高いサラリーマンがいた。
強めのパーマがかけられた髪は、前髪重めのマッシュヘア。優しげなイケメンフェイスの顎をわずかに隠すのは、首に巻かれた赤いマフラー。
キャメルのロングコートからのびた手が掴むのは黒色の通勤バッグで、その持ち手には水色のハンカチが結ばれている。
「こんばんは! 遅れてしまってごめんなさい。ルイです」
サラリーマンは待ち人の名前を名乗り、ふわりと微笑む。
一方の俺は、ふり向いた時の表情のまま、絶望した。
「あの、シュウさん? どうしました?」
「人違いです!」
俺がぎこちなくも素早く背を向けると肩を掴まれ、「待って下さい」と言われた。
「人違いじゃないですよ。僕は『ルイ』だし、あなたは『シュウ』さんでしょう? 昨日マッチングアプリで約束しましたよね。今日この時間にここで会いましょうって」
「俺が待ってるの、女性なんで」
「僕、ネカマしてたんで」
肩越しにふり返ると、柔らかな笑顔を保ったままの男と目があった。
「男に用はねぇんです!」
「そうなんでしょうけど、でも君、ここで帰ってこの後何をするんです? 僕との約束を放り出したら、ぼっちになるんじゃないですか? コンビニでカットケーキ買って、誰も待っていない暗い家に帰って、一人こたつに入って面白くないバラエティー番組見るんですか? せっかくのクリスマスイブに?」
「うっさいな! だったらどうだっていうんです?!」
「昨日、言ってましたよね。今日の夜、僕と会うことを友達に自慢するって。ここで帰って一人で過ごした場合、その辺りのこと、大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃなくなったのはあんたのせいだろ!」
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