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「今夜の僕とのことを、あたかも女性と過ごしたかのように話せばいいんじゃないでしょうか? まったくの作り話よりは、バレにくい嘘になるんじゃないかと思いますよ。あ、もし僕とこれから遊んでくれるなら、その代金は僕が全部持ちます」
男の目的が分からない。
同性が恋愛対象なら、同性同士専門のマッチングアプリだってあるのだから、そっちを使えばいいのに……意味不明すぎる。
「あんた、イケメンの癖にネカマなんてして……何がしたいわけ? だまされた馬鹿を笑いたかったにしても、もう目的は達成しただろ?!」
ワケが分からない男への苛立ちと不安、マッチングアプリはカオスで危険な場所と知っていたのに、手を出してしまったことへの後悔。
これら二つの感情が混ざりあった結果の、拒絶感モロ出しな俺の問いかけに、男ははじめて言い淀んだ。
「それは……。――僕、少し前に恋人にフラれたんですよ」
男は無言で数秒右斜め上を見た後、捨てられた仔犬のような顔をし、スンと鼻をすすった。
「僕、今年の春からここへ転勤になって、恥ずかしい話なんですが……友達がいないんです。だからマッチングアプリなら、手早くクリパできる相手を捕まえられるかなって思って」
「は?」
「女の機嫌とるの、面倒臭くなっちゃって。気楽に男同士で、ぱーっと遊びたいなぁって」
「……恋人探すアプリでネカマして引っかけた相手が、『よし分かったクリパしよう!』と返事はしなくない? 普通に考えて」
男の思考回路のつながり方は理解できないが、残念な奴だということは分かった。
転勤前からろくに友達いなさそうな人だな、とも感じた。
「ぼっち同士仲良くしましょうよ! さっきも言いましたがタダ飯できますよ!」
友達作りに必死っぽい彼を観察しながら、俺は考える。
歳は二十代前半くらいで、百八十センチくらいありそうな長身に、カッコカワイイ系の顔。
コートはよく分からないが、バッグとマフラーはタグからハイブランドの物だと分かる。はいている革靴もちゃんと手入れされている。
それはつまり彼の実家が金持ちか、彼が給料の良い会社へ勤めているということ。
相当変な奴だが――コイツとつながりを持てば、彼の見た目や肩書きに集まる女のおこぼれにあずかれることもある……かも?!
「僕は女性としか一線をこえるつもりはないので、そっちの心配は無用です! ただ男同士でワイワイ騒ぎたいだけなんで!」
「『ルイ』って本名?」
「え?」
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