聖人は非モテに厳しい

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聖人は非モテに厳しい

今より少しだけ昔――クリスマスイブの前日である今日の昼間、バイト先での出来事。 「イブにカノジョがいないとか、そんなの恥ずかしすぎて、オレならその日外出れねーわ」 休憩をとるため入ったバックヤードで、同僚のチャラ男が語尾に(笑)をつけ、スマホの向こうへいる相手に向けて放った言葉。 それはたまたま聞いてしまった俺の心を、深く傷つけた。 (うるせえぇぇぇ! 滅べ!! カノジョ持ちに災いあれーーッ!!) チャラ男を殴らず、呪いの念を送るだけにとどめてやった俺は、自分を誉めてやりたい。 (神様……自分にできるベストは尽くしていると思うんですが、何故俺に恋人を与えて下さらないんですか?) 今年の春に大学生になった俺は、地元を遠く離れて一人暮らしをはじめ、いわゆる『大学デビュー』をした。 勇気を出して床屋ではなく美容室で髪を切り、母親セレクトでない服を着て、オシャレなカフェをバイト先として選び、合コンが盛んだと聞いたテニスサークルへ入った。 すべては『大学生になったら可愛い恋人を作る!』という夢のため、四月からずっと全力で頑張っている。 けれどその努力は何故かまったく実らないまま、明日、クリスマスイブを迎える。 (こうなればもう……マッチングアプリしかねぇ!) 実のところ俺は既に、『恋人と過ごすクリスマス』というものを、あきらめていた。 しかしチャラ男が非モテを馬鹿にする発言を聞いた時、ショックを受けると同時に、『絶対に女子とクリスマスを過ごしてやる!』という意地がわいた。 (女子にだって、俺みたいな奴がいると思うんだよね! だからきっとワンチャンある!) 俺はそう信じ、一縷の望みを男女の欲望うずまくマッチングアプリへ託し――六つ年上の『ルイ』という女性と、イブの夜に会う約束を見事取りつけた。 * 待ち合わせは、フルチンなのにスカした顔でポーズをきめる駅前のブロンズ像前に、夜七時。 約束後からずっとソワソワしっぱなしな俺は、六時半前から像の前にいる。 今日の天気はただの曇天で、見上げても夜空には月も星も雪もない。 寒さで指がかじかむため、俺はスマホを持つ手とポケットへ突っ込む手を十分おきに変えつつ、ルイを待つ。 (赤いマフラーに、キャメルのロングコート。黒のバッグの持ち手に、水色のハンカチを結んでいる女……)
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