社長からの呼び出し

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社長からの呼び出し

 上司は、血相を変えて、ぼくのところに来た。 「社長は、シブヤ公会堂と言ったんだな…」 「はい…」 「運転手さんが行ったらいなくて、連絡がつかない…」 「えー、そうなんですか…」 「ヒビヤ公会堂じゃないんだな…」 「えっ、ヒビヤ公会堂…ってあるんですか?」 「ある…もういい…」  ぼくは、この時、はっきりシブヤと聞いていない事に気づいた。そして、心の底から言葉が出た。 「今どこにいますか?社長…」  その後、運転手さんは、ヒビヤ公会堂に行き、社長が見つかったと会社に連絡が入った。しかし、その後の予定の大切な会食に社長は、間に合わず、キャンセルになったとのことで、ぼくに何らかの処分があると上司に言われた。 「そうだった…現実逃避していた…だから、こんな夢を見たんだ…」  ぼくは、覚悟を決めて、3年付き合ってる彼女に『会社、クビになるかも』とメールを送って、出勤した。  会社に着き、カバンを机に置き、上司に挨拶して、社長室に向かった。扉の前で深呼吸して、入口の扉を叩いた。 「失礼します…」 「どうぞ…」  中に入ると社長と麗子さまがいた。急に社長が謝ってきた。 「君、すまなかったね…」 「えっ、大変申し訳なかったです…」 「いいのよ…あなたは謝らなくて…実は、作戦だったのよ…」  社長も麗子さまも怒っていなくて、逆に嬉しそうにしていた。ぼくは、呆気にとられてしまった。 「作戦ですか…」 「そうよ…あの日の会長との会食に行きたくなかったので、その作戦よ…」 「そうなんだ…どうも会長との会食は、いまだに緊張する…会いたくない…」 「これは、ここでの秘密にしてね…」 「はい…」  麗子さまから今回の作戦の内容を話されて、ぼくがターゲットになった事、若者だったら、シブヤとヒビヤを絶対間違える説を明かされた。  ぼくは、社長通達で、社内でも処分不問になって、シブヤとヒビヤの間違いは、社内のひとつの笑い話になった。  その日の夜、3年付き合った彼女から食事の誘いがあり、怖いぐらいに優しくされた。  気分が良くなったぼくは、帰り道には、宝くじを買ってみようと思った。                  終わり
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