0人が本棚に入れています
本棚に追加
冬の休日
スクリーンに映画が写っている。
客は俺一人だった。
どうしてこの映画を観ないのかわからない。
森孝宏監督の作品は俺の好きな監督だ。
しかもだ。山形市出身だ。
この俺のいる山形だ。
この俺のいる映画館の山形のシネマ通りを何度も観に行った監督だ。
ラーメン屋やカフェや店の数々を楽しんできた森孝宏監督だ。
だが森孝宏監督のファンは大勢いるのは知っている。ただこの平日の朝から来るのは居なかっただけだ。
おまけに雪が積もっている冬の今日だ。
だから色々あって来るのをやめたりしているのだ。
映画を最後まで楽しみ、シネマ旭を出る。
煙草を一本咥えて火をつける。
雪が少し降っていた。
煙か息か宙へいく。
ため息をつく。
何をしよう?せっかくの休みだ。
コートでも寒いけど昼もまだだ。
ゆっくりと俺は歩き出した。
シネマ旭かるミューズ、雪の上を歩く。
右の方に曲がり鬼がらしというラーメン屋を目指した。昼御飯にラーメンでも食べるつもりだった。
鬼がらしの外にある丸長い灰皿にコートを着ていて煙草を吸っている女性がいた。
あ、と俺はまさか会うとは思わなかった白田ひかりに会えて感動する。
雪の道に白田ひかりが煙草を吸いながらいる。俺は白田ひかりに近づく。
「白田」
俺は微笑む。
「岩田」
白田ひかりは俺の名字を呼ぶ。
白田ひかりの隣に立ち止まり煙草を咥えた。
火をつけて白田ひかりと煙草を吸いながらどこに行くのか聞いてみる。「鬼がらしで塩ラーメン食べて、今から一服したら七日町の八文字屋に行って、駅前に行く」白田ひかりの予定が出てきた。
「俺はいらない?」
「いらない。岩田は予定ないの?」
「終わったよ、森監督の映画見てきた」
「新作ね、その後は決まってないんだ?」
「ないよ、白田に会えてよかったんだけどな」
「私はそうでもない」
白田ひかりはニヤリとして煙草を灰皿にすてる。
美しい白田ひかりが俺に微笑んで去っていく。美しい白田ひかりの香りが俺の心をしめつける。
食欲は消えた。
ため息をついて白田ひかりには片思いだと感じる。
七日町をゆっくり歩く。
白く染まった雪の歩道で転ばないように。
電話が鳴った。
俺はコートからスマホを取ってみる。
「はい、岩田です」
「明日な、早めに出勤してほしいんだ。というか郡山市に指導行ってくれないか」
社長はズバズバ言ってくる。
小さな警備会社の社長だが。
郡山市?嫌な予感しかない。
「あの、郡山市の指導って俺ですか?」
遠回りの断り。
「岩田しか上手いのはいないだろ」
社長には効かない。
「それから明日郡山市に行くんじゃないぞ、明日は郡山市に行く話をするから早めに出勤を頼んだんだ」
「わかりましたよ」
電話を切りため息をつく。
郡山市の指導の話をするから早めに出勤か。
もう行かないはだめだな。
白く染まった雪道を嫌な気分で歩き出す。
最初のコメントを投稿しよう!