起こる。

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起こる。

 郡山市に行く二日前。 俺は東珠乃と七日町で会う約束をして会った。  ヌーベルFに登るエレベーターのすぐそばにある喫茶店だ。 「映画は好き?」 俺は煙草を咥えながら言った。 「好きだよ、岩田さんは?」 「俺も映画好きだよ」 「どんな映画今やってる?」 「森監督のやってるね」 森孝宏監督を知らない山形県民はいないだろう! 「山形の監督だね、よかったよ」 「俺も観た、よかったぁ」 そこから森孝宏監督の話になる。 しばらく森孝宏監督の話が続く。 それから沈黙が流れた。 「岩田さん、私が警備会社に入る前から岩田さんと出逢っていたんですよ」 東珠乃が言った。 え?そんな記憶はない。東珠乃が警備会社に入ってきて出会ったと思っているけど。 「やっぱり覚えてないんですね」 全く記憶にない。 警備会社に入る前に? すると、東珠乃は出会った時の事を話した。 苛められていた東珠乃を助けたのが俺らしい。だが、俺はそういう場面に合うと助けに入るのが常だ。多くて覚えていなかった。 「いいんですよ、知り合ったんだもん。警備会社からでも」 東珠乃は微笑んだ。 申し訳ないと俺は心の中で謝る。  喫茶店を出て七日町をブラブラ歩く。 何か恋人みたいで照れるけど嬉しい。  東珠乃の黒ぶち眼鏡で可愛い顔の女性を俺は助けていたのか。 白田ひかりに片思いなら東珠乃を真剣に恋に落ちてもいいんじゃないかな。 そんな思いになっていた。 「郡山市って初めてなんです」 東珠乃は言った。 「いいトコだよ、さくら通り、安積神社、駅前、俺は好きだった」 「岩田さん、森監督が郡山市に一時期住んでたから行ったんでしょ」 東珠乃はくすくすと笑う。 「そうなんだけどさ」 俺も微笑んだ。 冬の七日町を目的もなく歩く俺と東珠乃、幸せな徒歩を感じた。  しばらく話しながら歩く。 それぞれのそれぞれを知っていく。 それも嬉しいことだった。 東珠乃の過去も知っていく。  苛められていた幼い時代からの生活。 高校時代。社会に出てからも苛められていた。 助けた俺。そこから変わろうと俺の働く警備会社に入り頑張ってきた事。  俺の事も東珠乃は知っていく。 中学時代から映画オタクで森孝宏監督とブルースウィリスが大好きでシネマ旭やフォーラム・ヌーベルFの映画館がシネコン化になる事が出た時反対派で猛反対の闘いをしてシネコンが中止になった時や、恋人ができたりした事。様々を知っていく。白田ひかりという女性に恋をしている事も正直に話す。「その、白田ひかりさんて、香水とかも素敵なんですか?」と東珠乃は聞いてきた。 「うん。いい香りだよ、お洒落だし、でも片思いなんだよ」と俺は答える。「モデルしてる?白田ひかりさんて、山形の雑誌の。」と東珠乃は言った。俺はうなずく。有名になってないけどモデルをしている。東珠乃は知ってるんだ。と多少驚く。白田ひかりと出会ったのがモデルをしてるところの警備をした時なのだ。 白田ひかりの話はここで終わった。 「どこか行きたいところある?」 俺は聴いてみる。 「岩田さんといれればどこでもいい」 東珠乃は恋人に言うような台詞を言うので俺は照れる。  唇が重なる。 舌がお互いの口に入り合わさる。 女性の興奮と男性の興奮が盛り上がる。 唇が離れ二人は見つめ合う。 「岩田さんのことが好きです」 東珠乃は言う。 もう興奮が冷めていた。  どうしてキスをしたんだ俺? 困った。白田ひかりご好きだと言ってるのに東珠乃とキスを・・・。 「岩田さん、いいから。白田ひかりさんのこと好きじゃなくなったら私のこと考えてみて」 東珠乃が言った。 凄く俺を思って言ってくれたことのようで申し訳ない気持ちが出てくる。  俺と東珠乃は二日前をゆったりと過ごし別れた。  翌日には東珠乃に連絡がとれなくなった。  大垣警備事務所ですら連絡が取れなくて困っていた。「郡山市は一時遅れると伝えた、東はどうしたのか、岩田も最優先で探してくれ」という社長の命令で郡山市への指導は遅れる事になった。  東珠乃がどこにいなくなったのか捜すことが始まった。
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