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「いらっしゃいま……モルダー様!」
「こ……こんにちは。パンはまだ買えるでしょうか」
緊張した様子で店に入ってきたのはモルダーだった。十日間ぶりの姿に、ケイトは緩んだ口元をなんとか引き締める。
「実は、執……仕事が思ったより早く終わったもので。こんな時間に来て、迷惑ではなかったでしょうか」
「いいえ、まったく。お待ちしておりました、モルダー様」
「あ……はい……」
ぽーっとしてしまい、気の利いた言葉も言えない主君の背中を、ジョシュアが後ろからトン、と叩いている。まるで、しっかりしてください、と言っているようである。
「……モルダー様? パンをお取りしますね。どれがよろしいでしょうかぁ?」
さっきまでケイトの隣にいたはずのエミリーが、いつのまにかトレーとトングを手にしている。ちなみに、エミリーはモルダーと初対面である。
鈍いケイトはその意図に気が付かず、ついでにケイトしか見ていないギルバートは気にも留めない。しかしジョシュアは顔を顰めた。
「結構です。……私がやります」
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