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1.ケイトとギルバート
穏やかな午後の、春の風がペールグリーンのカーテンをはためかせる王宮のサロン。今日もケイト・アンダーソンの戦いは繰り広げられていた。
「……今日は何をしていたのだ」
「はい、王宮のパティシエと一緒にお菓子作りを」
「……そうか」
「殿下がお好きなアーモンドクリームパイを焼いてみました。一口サイズに切って食べやすくしましたので、執務の合間にお召し上がりくださいませ」
「……そこに置いておけ」
差し出したアーモンドクリームパイを直接受け取ってもらえなくて、ケイトは肩を落としそれをテーブルの上に置く。
けれど、こんなことで挫けるわけにはいかなかった。
「あの! それから、庭園に新しい花を植えたと聞いたので、それを見に行ってまいりました。これまでに見たことがない色合いと香りがとても素敵でしたわ。殿下も、今度ぜひご一緒に」
「……ああ、今度な」
やっぱり目の前の仏頂面に変化はなくて、ケイトは心の中でため息をついた。
この『今度』が永遠に訪れない『今度』ということは、痛いほどよく知っている。
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