ワタシ

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 夫は何て言うだろうか。それ以前にワタシが恵里香だと信じてくれるハズが無い。しかし他に帰る場所も無い。オフィスに行ったところで誰もワタシを分からないだろう。  恵里香は震える手で家のドアを開けた。すると心配して気が気じゃなかったのだろう。夫が走り寄って来た。 「恵里香、何処にい… あ、すみません。えっとどちら様でしょうか?」 「う、うう、あなた、ワタシ、ワタシよ。恵里香よ。あなたならワタシが分かるでしょ?」 「…あんた何を言ってるんだ。おい、俺の恵里香を何処にやったんだ」 「徳人。ワタシよ。恵里香よ。そうだ、あなたの好きな食べ物はオムライスでしょ。ワタシ言ったわよね。意外に子供っぽいねって。それに私達の暗証番号は全部1221。あなたの誕生日十二日とワタシの誕生日の二十一日を合わせたのよね。そう、あなた足が意外に小さくて二十五センチしかないでしょ。それで恥ずかしいからっていつもワタシが代わりに買いに行ってた。ね? あなたの事なら何でも知ってるでしょ?」 「う、嘘だ。お前なんか知らない。俺の可愛い恵里香を何処へやったんだ! うわぁああああ」  そう言うと徳人は狂った様に何処かへ行ってしまい恵里香は家に一人取り残された。テレビでは恵里香の事がニュースになっていた。有名ファッションブランドのオーナーでトップモデルの笠原恵里香が失踪したと。  だが見つかるハズもない。恵里香はまるで別人になっているのだ。恵里香はどうしていいか分からず家でただ一人うずくまっていた。
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