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38.兄弟の争いとリーゼンフェルト伯爵の活躍
その後のグスタフによる対応に迷いはなかった。僕が知らない間にオットーに指示して全てのことを丸く治め、長兄アランを筆頭にこれまで僕を苦しめてきた一族へそれぞれ処分を下した。
まず、リュカシオン公国の公位継承問題はアランとドミニクの間に起こった紛争によりお互い力尽き共倒れとなって終わった。
この件で裏側に立ち暗躍していたのはオットー・リーゼンフェルト伯爵だった。
ひと仕事終えて宮殿に報告に来たオットーから僕とグスタフは報告を受けていた。グスタフは勿論全て知っていたけど、僕は何も知らなかったので今ようやく話しを聞いて事の経緯を理解しつつあった。
「イヴォンヌ妃とヘクターが逃亡したんで、4分割された土地をどう分けるかで今度はアランとドミニクが争うのは目に見えていましたからね。グスタフの指示で双方に金を貸したわけです」
「そうだったの?」
「まずはドミニク様に資金を貸したいと僕の親戚を通して持ちかけましてね。金さえあれば、ということでドミニク様はまんまとアラン様に牙を剥き始めました」
最初はアランが当然リュカシオン公となるものと見られていたが、その他の兄弟が不在になった途端にドミニクはアランに反旗を翻した。その背景にはオットーの資金提供があったのだ。
「リュカシオン公国は数年に渡る飢饉により財政は逼迫していました。その上、調べた所によると公妃は金遣いが荒く、無駄な宝石やドレスなどに金を注ぎ込んでいたため財産は底をつきかけていたのです。」
継母は昔から父に宝石や芸術品などをよく買わせていた。しかしここ最近の飢饉にも関わらず散財し続けていたとは。
「私はドミニク様がアラン様に宣戦布告したのを機に、アラン様にも資金提供を申し出ました。もちろん私の正体は隠して、ですがね。それとたまたま私の叔父が傭兵業を最近はじめましたので、兵士も多少両陣営に提供させてもらいましたよ」
「はぁ……そんなことをしていたの……」
グスタフが言う。
「というわけで、アランとドミニクの諍いは蓋を開けてみればほぼ茶番だったのだ」
「グスタフが派手にやっていいと言ったので無駄に弾薬を大量消費してどんどん戦費を使わせましたよ。いやぁ、愉快だったな。あ、もちろん人はなるべく傷つけないように指示しましたよ」
「そ、そうなんだ」
どんどん出てくる驚きの事実に僕は目を瞬かせた。
(グスタフとオットーでこんなことを仕組んでいただなんて……)
「お金も片方に多めに出した後はちょっと引っ込めてもう一方へ多めに出して……と蛇口を開け閉めするように調整してなるべく紛争を長引かせました。そんなわけで、大量の資金を貸付けたところで両者はめでたく共倒れとなりましたよ」
(うわぁ……)
「さて、その結果債務不履行となったアラン・ドミニク両者は金を借りる際抵当に入れいていたリュカシオン公国の領土を差し押さえられた、というわけです」
「最後は俺が仕上げだけさせてもらった。領土を明け渡さなければこちらの軍を差し向けると言ってね。金も兵力も無いアランとドミニクに抵抗する気力など残っていない。早々に降参してリュカシオン公国は我々の手に落ちた」
「ルネ様。まったくずるいんですよこの男は。指示だけ出して最後はいいとこ取りですからねぇ」
「お前だって金を出しただけじゃないか」
「そのお金が今回ものを言ったんでしょうが。全く、こんなお遊びに国のお金を使ってしまったらマルセルに怒られると言うから私が引き受けたんだからな。しかも君の公務に支障が出ないように私が動いたのを忘れるなよ。貸しだからな」
「わかってるよ。今回の礼としてマルセルにも休暇をやるから2人でどこかへ旅行でもしてきたらどうだ」
「えっ、なんだって!?いいのか?」
「ああ。これまでずっと俺が飛び回らせて貰ったからな。たまにはあいつにも息抜きというものが必要だろう」
「おお、友よ……」
「ふん、気持ちの悪い言い方をするな」
「愛している、友よ!」
「お、おい、抱きつく相手を間違えるな!」
(ふふ、本当に仲がいいんだから)
こうして無駄な争いに戦費を注ぎ込み兄弟が自滅したような形で公位継承問題は幕を閉じることとなった。結果的にグスタフは直接手を下すことなくリュカシオン公国を手に入れたのだった。
その後グスタフは僕がリュカシオン公国を治めることを提案してくれた。だけど僕はそんなことよりも設計の勉強をする方がずっと魅力的だったので断った。
すると彼は、さしあたりアランに統治を任せると言って僕を驚かせた。
「アラン兄様に……?」
「ああ。ただし、お前に狼藉を働いた報いは受けてもらう」
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