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月光柱
エリコのリハビリを受けていた時、
「操縦士さん」がメンテナンスをしたいからと、一度だけ地上に船を下ろしたことがある。
その時僕は、初めて窓から森と空を見た。
「すっごくキレイだよ‼ あれ何?」
「コレは珍シイ。月光柱デスネ」
「げっこうちゅう?」
「空ノ上ノ氷の結晶に、月トイウ星ノ光が反射シテ起コル現象デス。
『ムーンピラー』ともイワレマス」
「ふぅ~ん」
エリコの説明はよくわからなかったけれど、
明るい、吸い込まれそうな光の柱。
あの柱の中ならば、上に昇っても下に降りても怖くはないような気がした。
僕は今、きっとその月光柱の中にいる。
上を見たら間違いなく未来が続いていると思う。
そして下を向けば。
僕の足もとには、大切な人達の大切な思い出が、白く温かな砂の中に埋まっている。
両手で掬えばすぐに、柔らかく、きらきらと輝く無数の砂が、僕の手の中に届くのだ。
ドクター。あなたは今どこにいますか?
息子さんにはもう会えましたか?
息子さん。
もしかしたら、
どうしても行き詰まってしまったら僕は、
いつかもう一度、あなたのお父さんをお借りするかもしれません。
大丈夫。必ずお返しします。
それに、言ってみればこれはドクターにも責任があるのです。
どうか、その時は少しだけご容赦ください。
「ドウシマシタカ? 何か良いコトがアッタノデスカ?」
「いいや。何でもないよ」
僕は今生きている。
そしてこれからも生きる。
みんなと一緒に、ムーンピラーの上に向かって。
そして時々、
温かい砂の上に寝そべって。
(完)
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