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今
「看護師ロボットさんじゃ長いから」
「了解シマシタ」
彼女の名前は「エリコ」になった。
あの日、エリコは最優先事項を完遂した。
僕の部屋の床は、最初から船の離脱部に通じていたのである。
自分の意志一切を蚊帳の外に置かれたまま、僕はこの時代を生きることになった。
研究者の欲によって生み出され、
ドクターの過去への想いによって生かされ。
封筒の中には新たに、僕の実在証明カード(偽造だろうね)。
そしてドクターからの手紙と、彼の亡くなった息子の写真が加えられていた。
僕に出逢えた喜び。共に過ごして楽しかった日々。そして、喪った息子と僕を重ねていたことへの詫び。
何となく気づいていた。
最初はやっぱり複雑な気分だった。僕はドクター以外の人間を知らなかったし、他に頼れる人はいなかったから。
今僕は、エリコのおかげで落ち着いて未来を見つめることができる。
一方的に放り込まれた世界に戸惑い、焦り、自分の不甲斐なさに苛立つ僕を、エリコは黙って受け入れ、諭し、全てを教えてくれた。
泊まるところ、暮らせる部屋の見つけ方。教養、作法、護身、そしてお金の稼ぎ方。
エリコは「家族」だった。
僕は今、「幸せ」に向かっていると思う。
寂しくないから。
独りじゃないから。
僕の側にはエリコも、母さんも、父さんも、侑咲も、
そしてもちろん。
自爆前、ポッドに向かおうとしたエリコに
「ドクターの落とし物拾って!」
「全テハ不可能デス」
「可能な数でいい!」
「了解シマシタ」
僕が下した最初の命令に、
エリコはドクターの「歯」を掴んで滑り降りた。
僕は今、光の柱の中にいる。
上を見上げれば、間違いなく未来に続いていると思った。
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