123人が本棚に入れています
本棚に追加
「唯!?」
唯を見つめる姫花の目は、驚きで大きく見開かれている。
その瞳の蒼い煌めきが強調されて、
(綺麗だな……)
唯は男の手を未だに思い切り捻り上げたまま、姫花に見惚れていた。
「ちょっ……ごめんなさい! 許して下さい! めちゃくちゃ痛いです!!」
唯のすぐ傍で、男が涙声で叫んだ。
「あ」
男の存在を完全に忘れていた唯が、ぱっとその手を離す。
「次、姫花に近付いたら、その腕根元から捻り切ってやるからな」
本気としか思えない唯の声と目つきに、
「ひっ……!」
男はもう声も出せなくなり、黙ったままペコペコと頭を下げて、逃げるように走り去った。
「……いつからつけてたの?」
姫花にじとっと睨まれ、
「マンションの前からずっと」
唯は悪びれもせずに答えた。
尾行してきて良かったと心から思っているから。
「待ち合わせにならないじゃん」
ムスッとむくれる姫花に、
「“待ち合わせに少し遅れてきた彼氏風”の台詞はちゃんと言ったぞ」
唯もムッとした。
本当は、姫花に会って一番にかけたかった言葉があったのに。
今言える空気でもないので、唯の中の計画が上手くいかず、内心ではかなり苛立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!