ねないこおれだ

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 女は日常的に人形と一緒に寝ていた。     女は布団の中でその人形のことを抱きしめ、時には心の声で話しかけて眠りにつくことが習慣となっていた。    毎日眠るにつれ、人形に女自身の匂いがついていることに気づいた。    枕に頭皮の匂いが移ってしまうことと同じように、人形にも匂いが移っていた。    さらに    長年犬を飼っていると、段々その犬と飼い主の顔が似てくるという話があるが    それと同じように、女は人形が自分の顔とよく似たものになっていると感じた。    より一層、人形に親近感を抱いた。    女は毎日、彼女と眠った。    そんなある日    いつものように布団に入り、人形を手に取ると、ぬくもりがあった。    無いはずの体温があった。    人形の目は真っ直ぐに女を見据えている。  女はその目に引き寄せられ、呑み込まれた。    布団の上には、もう体温を宿していない人形と女が横たわっていた。    女は人形を見ながら呟いた。   「ようやく人間に戻れた」  
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