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涌き上がる悲しみ
「君は今何処に居るんだ、、」
僕は、この旅館から見える夕日に向かって、もう居る筈もない彼女(華奈)に問いかける。
僕達は毎年、この旅館へ遊びに来ていた。
2人で夕日を見ながら浜辺を散歩するのが定番だった。
初めて此処に一緒に来た時に、この浜辺で告白をして付き合う事になった。
そして、またこの浜辺でプロポーズをして婚約をするまで、ずっと毎年、記念日には此処を訪れていた。
此処は2人の幸せな思い出の場所。
君が居なくなって、もう半年が経つ。
一方的に華奈の親から、死んだとだけ電話で聞かされたが、まだ実感が湧かない。
僕は、その理由を華奈の両親には聞く事が出来なかった。
どうして、死んだ理由を教えてくれなかったんだろう、、
***
時は経ち1年が過ぎた。
僕はまだ、華奈が死んでしまったなんて信じられなかった、、
来る日も、来る日も、考えていた、、
華奈は、まだ生きているのかもしれないと。
でも、その期待とは裏腹に彼女は本当に死んでしまったと急に聞かされた。
彼女と僕の共通の友達の真人から聞かされた。
真人は、華奈が死んでしまっても、その事実を信じようとしない僕を心配して、僕が前に進める様に、事実を受け入れられるように、会いに来た。
「おう、調子どうだ?」
「全然、元気だよ、、」
「何言ってんだよ。こんなに痩せちまってよ。飯食ってんのかよ?」
「おう、ボチボチな。だけど、あまり食欲が無いからな。量はあまり食べれないけどな。」
「そんなんじゃ駄目だぞ!沢山食べて元気ださなきゃ!じゃあ、今から焼き肉でも食いに行くか!俺が奢ってやっからよ。」
「いや、いいよ。」
「何だよ。せっかく奢ってやるって言ってんのによ。」
「ありがとうな。でもまだ華奈が帰って来てないからな。もしかしたら、ひょっこり帰ってくるかもしれないしな。華奈が帰って来たら、また皆で行こうな。そしたら僕が奢ってやるからさ。」
「直哉、俺この間、華奈の家に行って来たんだ。仏壇に線香をあげてきた。ご両親も酷く落ち込んでてな、どうして亡くなってしまったのか、聞けなかったんだ。けど、もう華奈は死んでしまったんだよ。」
「えっ・・・、そんなの僕は信じないぞ。」
身体の力が一気に抜け悲しみや切なさや悔しさ、色々な感情が、自分の中にどっと雪崩のごとく流れ込む。
僕は暗い沼にハマってしまったようだ。
もがいても、もがいても、そこからは抜け出せない、真っ暗な沼の底へと引っ張られていくようだ。
「直哉、しっかりしろ!ちゃんと現実を受け入れて、前に進むんだよ!俺が、ずっと傍に居てやるから!」
ずっと押し殺していた感情が一気に涙と共に溢れ出て、言葉にならない程に嗚咽だけが、止めどなく出ていた。
しばらくすると嗚咽は止まった。
そして僕は口を開いた。
「僕は華奈の居ない世界なんて考えられないよ。華奈が死んだなら、僕も死んで華奈に会いに行くよ。」
「何言ってんだよ!ふざけんなよ!俺はお前が必要だ!お前の家族も友達も皆、お前が必要なんだ!今のお前の様に悲しみに苦しむ人が沢山増えるんだぞ!お前は華奈に恥じないよう一生懸命、生きて生き抜いて、またいつか華奈と会えよ。俺はお前が死んだら許さないからな!ってか死なせねーよ!」
「分かったよ!生きてみるよ!」
「そうだ!辛くなったら、すぐに俺に連絡しろよ!ってか、ちょこちょこ来るからな!絶対に死ぬとか変な事は考えるんじゃねーぞ!」
「分かったよ。」
しばらく真人は僕の傍を離れなかった。
数日、泊まり込むと会社もあるからと帰って行った。
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