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這い出る事の出来ない沼の底
真人が帰ってからは、僕の部屋には静けさと、悲しみや、寂しさが渦巻いているようだ。
そんな渦の中で僕はボーッと考えていた。
あー、、
僕はいつから、こんなにも弱い人間になってしまったのだろう、、
何故か涙が溢れ出てきた。
今までは根拠の無い自信だけはあったのに、華奈を失ってしまった途端に、どうしてこんなに、僕の全てが空っぽに思えるのだろうか、、
華奈、君はどうして死んでしまったの、、?
僕を残して、、
華奈に会いたいよ、、
***
それから、2年ほどの月日が流れた。
僕は未だに、抜け出せない沼の底でもがいていた。
毎日が暗くて、辛くて、悲しくて、どうしようもない感情に苦しんでいた。
華奈、あれから、もう2年が経ったね。
これから先も僕は、この苦しみに耐えられそうにないよ。
情けないけど、僕の人生終わらせて君に会いに行くよ。
華奈との思い出の場所で行くから待っててね。
ベッドに横たわり、そんな事を考えながら、眠りについた。
眠りから覚めると僕は2人の思い出の旅館に電話をかけた。
当日の予約で空いてるのか不安だったが、ラッキーなのか、予約が取れた。
いつも予約が埋まっている様なお店なのに、当日で予約が取れるなんて珍しかった。
「今日、2名で宿泊で予約取れますか?後、もし空いてたら、いつもの部屋でお願いしたいのですが。」
「取れますよ。いつものお部屋も空いておりました。本日2名様でお待ちしております。夕食はお部屋に何時頃にご用意致しますか?」
「18時でお願いします。朝食は無しで5時頃、チェックアウトしたいのですが大丈夫ですか?」
「かしこまりました。それでは本日お待ちしております。」
僕はすぐに準備を終え、車に飛び乗った。
華奈との思い出の場所を1つ1つ辿りながら、寄り道をしながら、18時少し前に旅館についた。
旅館に着きチェックインをする際、店員さんが少し不思議そうに聞いてきた。
「お客様、お連れ様は後で来られますか?夕食が18時とお聞きしておりますが、18時にお部屋にご用意しても宜しいでしょうか?」
「はい。18時で大丈夫です。実は、いつも一緒に来ていた僕の婚約者は3年程前に亡くなりましてね、その後は1人で来る事も多かったと思いますが、今日は僕の気持ちを全てリセットする為に、此処に来ました。きっと彼女も一緒に来てくれていると思いますから、今日は2人で予約したんですよ。」
「あっ、そうでしたか。余計な事を聞いてしまって、申し訳ありません。今日はお連れ様と素敵な時をお過ごし下さいませ。」
「ありがとうございます。」
その日は何だか1日中、華奈が傍に居るような、そんな感覚がして、とても心地よく過ごし、グッスリと眠れた。
華奈が亡くなってから今まで、こんなにグッスリと眠れる事なんて1度も無く、いつも不眠だった。
この3年間、過ごした苦しみから解放されて華奈に会えると思うと、少し胸が踊るようだ。
朝5時にチェックアウトをすると、2人で訪れた事のある山に大きな橋がかかっている場所がある。
そこから、2人の思い出の海が見える。
朝も夕方も、とても幻想的で綺麗な景色の見える場所で此処に来ると、いつも訪れていた。
僕はその景色を、しばらく眺めていた。
華奈が傍に居るような感覚で、とても心地よく幸せな感覚だった。
そろそろ、僕は華奈の居る世界に会いに行くよ。今行くから待っててね。
僕は橋の欄干に登り、立ち上がり両手を広げてバランスを取り、クルッと歩道の方に向きを変え、海を背にした。
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