首都壊滅への序章

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秋葉原駅前広場、神田花岡町。 詰めかけた群衆の中、安座間と和久井は高架橋、駅ホームの見える広場中央最前列でその時を待っていた。警備警戒にあたる東京国親衛隊員は、純白に青いラインが眩しい正装服で聴衆の関心を引いた。 親衛隊員の役割は、人民に身近な存在であることと党員への勧誘、そして先だって施行された、東京国に関わる破壊活動防止法に基づく監視であった。 一方の東京国軍の兵士達は、純白に深紅のラインが施されていた。 安座間は、上念から貰った革の手帳を眺め。 「親衛隊の青は忠誠と誠意。国軍の深紅は自己犠牲の精神と純血と、そして未来を表している」 と、ぶつぶつ呟いた。 安座間は、中学時代から秋葉原に出向いていた。 駅前の老舗の無線電機店の主人とは顔馴染みだったし、自作パソコンの調整や相談は、いつもそこで解決できた。 高校生になると、地下アイドルに熱中した。 ところが、注目していたアイドルが国民的人気を集め始めると、一気に秋葉原への愛情は薄れ、訪れる機会もなくなった。 安座間はそれを、急速冷凍みたいな卒業と表現し、ブログに思いの丈を綴って毎日泣いた。 地下アイドルは自分だけのものでいて欲しかった。 ネットの世界はごく自然な日常としてのアイテム。 洗濯機やテレビと同等の必需品。 それだけのシロモノだった。 ところが、イイねの数に高揚していた時期もあって、今となってはそんな過去も笑える自分が誇らしかった。 何せ東京国親衛隊員なのだから。 秋葉原は時代に敏感な街で、闇市から始まって電気街、そして日本文化発信拠点へと見事な変貌を遂げた。今後は、極限武装中立国・東京国建国宣言聖地として語り継がれるだろうと、安座間の妄想は膨張し続けていた。 「君は行かないのですか?」 隣の和久井の質問に。 「親衛隊と国軍幹部は違うよ、上念さんはああ見えて崇高な理念をお持ちだから、みたまがみのきるあに存在出来うるキルアなんだよ」 興奮を隠しながら、安座間はあえて淡白に答えた。 歓声が周囲に轟き始める。 大地の唸り。時空の歪み。五感の崩壊。あらゆる阿鼻叫喚を引きずりながら、61式戦車がゆっくりと秋葉原駅ホーム、京浜東北線高架軌道を進み停止した。 安座間は絶頂を迎えた。 と、同時に、栗原ケイを殺した感触がフラッシュバックした。 彼女の絶望に満ちた最期の表情は美しく、夜な夜な思い返しては思いに耽り、人間の生命が終える瞬間を、再びこの目に焼き付けたいとも考えていた。 獲物と成り得る若い女性は、周囲にも大勢いた。 安座間は紅潮する表情を抑えながら。 「親衛隊の青は忠誠と誠意。国軍の深紅は自己犠牲の精神と純血と、そして未来を表している」 と、念仏のように唱え続けた。
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