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槙野恵子は、上念の昂った声にうんざりしていたし、何より貧相で滑稽なパフォーマンスにも嫌気がさしていた。
正体不明の希望の中にあって、自分たちが最も正動であり正義だとした概念は、心地良いだけの同調圧力の内の陶酔。
恵子は、上念の顔を盗み見ながら、ナルシスト特有の嫌味な笑顔と、秋葉原へ希望を求めて集まって来た群衆に。
「私達は過激派なんだよ」
と、言ったら、どんな顔をするのだろうと想像し、努めて表情を崩さない様に平静を装った。
全世界へ生中継される、極限武装中立国・東京国建国記念式典は、厳格な雰囲気で行われなければならないのだ。
外から見れば、此処は危険地帯であり、実際に脱出する人々で東京23区境界線、特に世田谷・狛江エリア、板橋・戸田エリア、大田・川崎エリア、江戸川・浦安エリアは混乱を極めていた。
避難民を誘導する警察官や自衛官も、最強のディフェンスと化した死のオーロラ内部への立ち入りは禁止されていた。
内戦による犠牲者数に、日本国政府が神経を尖らせている実情が、この命令によって垣間見えた。
恵子は、思いの丈を群衆にぶつけた。
時折、言葉に詰まりながらも、同じテンポで前を見据えながら話すその姿は誠実に見えた。
生前に島本が嘆いていた崩壊国家日本、東京オリンピック終了を境にして、失業率は45%まで上昇し、不動産価格は下落した。
AI の発展と労働移民法緩和は、日本人の仕事を奪い、犯罪や自殺者を増加させる一因にもなった。
中でも、働き口を見つけられない若者達の惨状を、島本は危惧していた。
彼らの目には光が見えない。それは希望がないってことだと。
恵子は、この場に島本がいてくれたら、どんなに心強いだろうと思った。
僅かに汗ばんだ身体を笑ってほしかったし、ふたりきりで乾杯もしたかった。
空に漂うのんびりとした雲が、秋葉原を通り過ていく。
「行かないで」
とも叫びたかった。
それでも、恵子の声を人々は温かく迎えている。
イザナミの言葉を、群衆は待っていたのだ。
「光栄の時を分かち合える仲間の存在に感謝します。しかし、いまなお目前に横たわる厳しい使命を、わたしたちは成し遂げなくてはならない。その使命に対し、我々が過去直面した試練や問題、それに立ち向かう強靭な勇気、揺るぎない熱意、屈しない忍耐をもって行動すれば、この世界はどんなに美しいでしょう・・・きっと。わたしたちの想い、感謝と深い義務感は、これからの闘いで、崇高なキルアへと導かれることで不具となリます。わたしたちが愛してやまぬ人々を、天空より見守って下さる輪廻星は、文明社会の勝利者であり、心なのです。一緒に進みましょう! もう過去はいらない! 共に繁栄するのです! ひとりも置き去りになんてしない! ここに宣言します。東京国!海魂上埜樹流亞に捧げるわが身を!! そして、日本国は東京国の傀儡国家となる将来を!」
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