5人が本棚に入れています
本棚に追加
東京国国防総省、宇宙軍中央作戦基地方舟。
失われゆく尊い命の陰影を、君たちはどう感じているか?
戦闘指揮所内の加瀬は、運命を共にする若者たち、方舟という安全地帯で任務に就く隊員達と、いつかは議論しなくてはならない重大な問題をに考えていた。方舟に従事する隊員は、スカイブルーの軍服に身を包み、それはあたかも、聡明に広がる平和の空を司る選ばれし者達、特別な軍人を意味していた。
高学歴で頭脳明晰、従順で思想家では無い若者達を見て、妄想狂の理想世界の色がスカイブルーだと、加瀬は嫌味な顔で辺りを見回した。
最前線では不適合な、お洒落でカッコイイお洋服。
頭に浮かぶ一語一語を不快に思いながら。
「君は、この任務に誇りを持てるかい?」
と、モニターに映るセレモニーを眺めている、りんね管理科、畑に優しい口調で尋ねた。
「まだ・・・わかりません」
彼女はさらっと答えた。
加瀬は、畑が身分相応で、地に足がついている人間。
要するに、まともな人間だと思っていた。
それは、日本国際テレビ局を標的とした、超エネルギー銀河宇宙線G線照射攻撃の際にも感じていた。
人口統計数を報告する畑の指先が、一瞬止まったのだ。
数分で消える生命の数を見て、躊躇したのだろう。声も震えていた。
加瀬は、畑の頭をクシャっと掴んでその場を離れた。
自分の子供と歳の変わらない兵士達。
死ぬなよと言ってやりたかった。
モニターに映る槙野恵子は、イザナミとして海魂上埜樹流亞に降臨した。
それこそが東京国なのだ。
ヒトは自惚れる。
空をあざ笑い、地を腐らせ、時には生命も貪る。
この世の悪はヒトなのだ。
では、何故そこに生命が宿っているのだろう。
生命自浄作用の発見が、全ての答えだと加瀬は想像した。
ヒトは万能ではない。
進化しながら後退し続ける存在なのだ。
欲望に歯止めが利かなくなった時、ヒトはは絶滅する仕組みになっている。
ともすれば、破滅の危機に瀕しているにも関わらず、絶滅するのがヒトかもしれない。
加瀬は、モニターから流れ出る声に耳を傾けながら、時代に身を任せる愚行に打ち勝とうと必死に思考を張り巡らせた。
摂津志の声が聞こえる。
途切れ途切れではあるが、しっかりとした迷いのない声だ。
「東京国防衛軍海兵隊! 前へ!」
秋葉原駅高架上、61式戦車を背景に、純白の軍服を着た12名の兵士達が紺瑠璃色のライフルを天に掲げた。
戦車砲塔に立つ恵子が叫んだ。
「わたしたちは愚かなのか? その審判はいずれ歴史が証明するでしょう。イザナミは降臨した。わたしに宿り、皆を導くために降臨した。そしてこの、美しい銃はイザナギと名付けましょう! 海魂上埜樹流亞へと誘うキルア! それがイザナギであり、東京国の証なのです!」
人々の歓声が、スピーカーを振動させた。
方舟は、異様な静寂に包まれていた。
最初のコメントを投稿しよう!