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同時刻。
千葉県湾岸埋立地。
東京ハッピーリゾート・東洋黎明館は地下1階、地上3階建てのバロック様式のホテルで、白を基調とした中国産の花崗岩で覆われたデザインは、赤坂迎賓館を意識して造られた。
地上2階までは、一般客室として利用され、シーズン中は多くの観光客で賑わいを見せた。
正面玄関、深紅のカーペットを通り、大理石の柱を抜けると、中央ホール一面はフレスコ画で覆われ、煌びやかなシャンデリアがその世界を照らしていた。
光の反射と、鮮やかな色彩の宗教画は、足元に見事な陰影のフォルムを描いて大燭台へと続き、8体の青銅製の仁王像にも迫力を与えた。
そのいびつさ故に、建築評論家から、悪趣味だの成金主義だのと批判を浴びたホテルだが、利用客の殆どは海外からの富裕層で占められていた。
一方で日本人はというと、東京ハッピーリゾートから少し離れたビジネスホテルや、モーテルを好んで利用して、一部の非難合戦には興味を示さなかった。
東洋黎明館の3階は、要人専用の特等客室となっていた。
併設されたエレベーターは海中深く、方舟まで延びている。
利用出来る人間は、東京国政府、国防委員会のメンバーや幹部、そして方舟搭乗員に限られていて、厳重な管理体制が敷かれていた。
この、テーマパークを隠れ蓑にした軍事施設の存在は『東京事象』発生後に、世間に公となり、運営していた韓洋グループ傘下の、東亜クラブ取締役社長は、マスコミから糾弾された後に自殺した。
北側の宝玉の間、鶴丸の間、雷武の間は、主に謁見の間として利用される。
その隣、玄関ホール真上に存在するサロンを挟んで、南側に鳳蝶の間と呼ばれる晩餐会会場があって、重厚な扉の前では、常に2名の東京国軍兵士が警備にあたっていた。
室内から洩れ聞こえる、野見山と青葉の声に神経を尖らせながら、2人の兵士は手にしたイザナギの出番を待っていた。
イザナギは、人を瞬時に消滅させるレーザーライフルで、その威力は明石大臣暗殺で証明され、軽量化ののちに大量生産された。
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